三里木区  たわらや酒店  宇野功一F

1035号 2022年6月12日

(181)世界が注目する女性杜氏・今田美穂さん

  一昨年、英BBCの100人の女性2020」に日本人女性として唯一、今田美穂さんが選出されました。全国各地に日本酒を造る蔵元は約1200場あります。その中で、女性が蔵元を継ぎ、女性が日本酒を醸す蔵は、そんなに多くはありません。30場あるでしょうか?
 私は、学生時代から、東京のとある醸造(酒蔵の設計技術者)の先生のご縁で、今田美穂さんと知り合うことができました。広島酒を、たわらや酒店が発信しようと思う中で、一番にお客様に伝えたい方が、今田美穂さんであり、彼女が醸す日本酒「富久長(ふくちょう)」です。
 広島酒は三浦仙三郎翁(明治時代の醸造技術者)のおかげで、全国的な銘醸地に、広島が躍進しました。三浦仙三郎の実家は、今田美穂さんの蔵の隣にあり、三浦仙三郎流の酒づくりが脈々と受け継がれているのが、日本酒「富久長」です。まさに、広島酒の王道と言えるでしょう。
 日本酒業界はたいへん閉鎖的な環境で、男性が醸造に、長年従事してきた業界です。女性が酒を醸すことがタブーであった時代もありました。さまざまな障壁を乗り越えて、今田美穂さんのストーリーを作り上げ、醸し上げ続けており、世界が注目する女性杜氏です。
 そんな今田美穂さんが醸し出す酒は、価格以上にトータルパフォーマンスが優れた酒です。山田錦の味わいの特性を香味ともに、とても上品に、とてもエレガントに表現している酒です。純米らしい面と、吟醸らしい面、ややもすれば、大吟醸みたいな酒質があります。久々に感動した1本に出合うことができました。

『富久長 山田錦 純米吟醸』
【色】淡い薄い澄んだレモン色、琥珀色
【香】仄かに香ります。酸味をイメージさせる香り。レモンみたいな爽やかな香り。
【味】口に含むと、ジュワーっと柔らかい味わいが広がります。味蕾が、シャボン玉のようにプチプチと弾けるように香味が口の中で開いていきます。とてもバランスが整った味わいです。アフターの余韻も程よく、キレが良く、ぐびぐびと杯が進む酒です。
【合わせる料理】お魚料理と全体的に相性がよい。
【Service温度】やや冷。12〜15℃。
【価格】 1.8リットル   3,520円(税込)   720ミリリットル 1,760円(税込)


1037号 2022年7月10日

(182)地酒途中下車 豊肥本線・緒方駅(大分県)
大分の銘酒『鷹来屋』(たかきや)

◆浜嶋酒造(資)の歩み
 浜嶋酒造は、明治22(1889)年。初代の浜嶋百太郎氏が創業した老舗蔵。
創業当時、縁起がよいとされる鷹が、浜嶋家によく飛来してきたことから、屋号を「鷹来屋」としたそうです。
 大正3(1914)年、熊本酵母の産みの親で「熊本の酒の神様」・野白金一(のじろきんいち)先生が、浜嶋酒造(資)の酒に自分の名と浜嶋家の屋号から1文字ずつ取って「金鷹(きんたか)」と命名されたそうです。
◆「鷹来屋」誕生へ
 5代目・当主の浜嶋弘文さんが学生時代、昭和54(1979)年、弘文さんの母が、病気で倒れられ、急遽製造をストップ。それから17年間、煙突から煙が出ることはなくなり、地元の蔵元に清酒製造を委託して、未納税酒を瓶詰めして、酒蔵を維持していたそうです。
 弘文さんは、「いつか、また、清酒を醸したい」と思い続け、1990(平成2)年国税庁醸造試験場(現、国税庁醸造研究所)東京都北区の滝野川で酒造りの理論を学ばれました。
 平成2(1990)年に浜嶋酒造を継承。その後、いくつかの酒蔵へ武者修行に出かけ、平成9(1997)年1月、5代目当主が、自ら杜氏として醸した日本酒が誕生したそうです。手本となる師がいない中、自らの感覚を信じ、情熱と愛情を注いでタンク5本(1升瓶約4,000本)分の日本酒を初めて仕込みました。弘文さんは、その酒の名に、浜嶋家の屋号である「鷹来屋」を冠したのです。今では、大分県で品質の高いブランドとして成長。熊本県で初の「鷹来屋」特約店となり、7月5日より、弊店に「鷹来屋」が並びます。
 自らが夏場に栽培した様々な酒米の特性を表現しながら、目指す酒質を作り上げる。とても難しく、緻密でなければなりません。収穫年によっても、酒質のブレを少なくしなければなりません。春から秋にかけて、米づくりからやっているからできることであるのかもしれません。「鷹来屋」の酒は一言で表現すると、仄かに吟醸香をまといながらも、上品な旨味があり、さらりと飲める酒質。つまり清美な酒質の日本酒です。ぜひ、一度飲んでみてください。

〇イチオシの酒
鷹来屋「雄町」純米吟醸
【タイプ 醇酒系 やや芳醇&うま口系】
原料米:自社栽培『山田錦』/岡山県産『雄町』
精米歩合:55〜60%
日本酒度:+4.0(やや辛口)
酸   度:1.60ml

アルコール度数:16.8%
価  格 720ml
 ¥1,750-(税込)
製造元:浜嶋酒造(資) 大分県豊後大野市緒方町下自在381番地


1039号 2022年8月14日

(183)地酒途中下車 仙石線・本塩釜駅(宮城県)
宮城の銘酒『浦霞 禅』(うらがすみ ぜん)

 『松島や ああ松島や 松島や』
 日本三景の一つ、松島は、宮城県仙台駅から石巻まで伸びるローカル線・仙石線。その途中に、塩釜があります。この塩釜に東北を代表する美酒・浦霞「禅」を醸す轄イ浦。今回は、この酒蔵をスクープしました。
■伊達家ゆかりの銘醸蔵
 江戸藩政期の塩竃は藩主・伊達家の崇敬篤い塩竃神社の門前町として、また仙台の海の玄関口として諸税免除等の恩恵を受けながら大いに発展しました。訪れる多くの旅人のために旅篭や歓楽街が神社の門前近くに軒を連ね、活況を呈していたといいます。蔵元・佐浦家の初代・富右衛門は、はじめ麹製造業を営んでいましたが、1724年に酒造株を譲り受け、以来 塩竃神社の御神酒を醸しつづけてきました。明治時代には、海路を利用して三陸沿岸への出荷も盛んだったようです。
■浦霞 『禅』純米吟醸
 浦霞は、東北の銘酒として全国的に名を馳せています。浦霞の安定した優れた酒質は、協会12号・浦霞酵母として醸造協会が1966(昭和41)年より配布をしている酵母です。
 発売以来、地元宮城県はもとより全国的に銘酒の名を馳せた銘酒です。吟醸酒ブームの口火を切った往年の浦霞。控えめな香りと、上品な味わいは日本料理全般に向く食中酒として最適です。冷でも美味しいですが、温めに御燗を点けても美味しいです。
 浦霞『禅』は、1973(昭和48)年に発売。当時、吟醸酒を市販した先駆的な銘柄です。ほのぼのとした春のような酔い心地は飲み飽きず食中酒として最適です。上質な原料を高精白し、低温長期発酵の特別仕込みに依り、すっきりとした味と含み香を身上としています。
 酒名の「浦霞」及び「禅」の書は、松島瑞巌寺百二十八世の住職・加藤隆芳老師(五雲軒と号す)にお願いし画は禅画の淡川康一先生の作とのこと。だるまのラベルは、かなりインパクトがありますね。発売当初、フランス輸出を意識して、日本らしいラベルデザインにしたといいます。発売から来年で約50年。今でも、デザイナもさることながら、中身の日本酒を「旨い」酒です。
■浦霞「禅」純米吟醸=品格ある香味
 和食との相性がとてもいいです。
<テースティングコメント>
【香】爽やかで華やかな吟醸香。香りぷんぷん系の酒ではなく、上品に慎ましく漂うような品格のある香り。
【味】軽快ながら、しっかりと上品な旨味を兼備した純米吟醸です。発売以来、多くの酒徒を虜にしてきた品格のある味。一言で「旨い!」と表現してしまいますね。

 

【タイプ やや芳醇&うま口系】

アルコール度数15.2%
価 格 720ml ¥2,352-(税込)
製造元:
   轄イ浦 宮城県塩釜市本町


1041号 2022年9月11日

(184)隋兵寒合(ずいびょうがんや)と 『ひやおろし』

◆隋兵寒合(ずいびょうがんや)
 今年は6月28日に梅雨が明け、7月、8月と雨が多く、そして暑い夏でした。
 熊本には『隋兵寒合』(ずいびょうがんや)という言葉があります。
 熊本市内に藤崎八旛宮という神社があります。1000年以上の歴史のあるお宮で、この宮の秋の例大祭は、御信仰行列の後に、馬追い奉納があります。馬、口取衆(馬の手綱を持つ)、楽隊衆(馬を囃すラッパと銅鑼)、勢子衆(馬を追う)が100名〜500名が一団となって、熊本市街地を練り歩きます。これを隋兵といい、その行列を隋兵行列といいます。団は約70団にもおよび、参加者は約2万人でしたが、3年ぶりに復活する祭は、17団体と激減しますが、久しぶりの祭りの開催にウキウキします。
 もともとは、旧暦8月15日に開催されていたようですが、その後は9月15日の敬老の日の祝日に開催されるようになり、現在は9月第3週日曜日に開催されています。今年は9月18日に開催されます。
 この時期になると、熊本も朝夕は凌ぎやすい気候となります。朝の信仰行列、隋兵行列を見物する方、祭に出る方は、朝早くに家を出ます。昔はタンゼンを着るほど寒く冷えたと言います。
 今年も隋兵の季節となり、朝夕は急に肌寒くなりました。今朝も最低気温は22℃と、窓を開けて寝るには少し肌寒い気候です。

◆ひやおろし(冷や卸し)
 日々秋の深まりを感じる時節です。この時期、酒蔵の内気温(15℃程度)と、日中の気温の差が無くなる時期を迎えます。この季節になれば、冬〜春にかけて仕込んだ新酒がひと夏の熟成を経て、旨味を増す時期とされています。この時期に瓶詰め出荷する日本酒を「ひやおろし(冷や卸し)」と言います。
 春先の若々しい新酒とは違い、香りは穏やかで、落ち着いたタッチの酒になります。当然、それぞれの蔵元によって、香味の趣も違います。
 百舌鳥の囀りを聞く時期に、脂ののった魚と、全国各地のひやおろしの味わいを楽しむ。秋の楽しみにしてはいかがでしょうか。

追伸)9月18日(日)私も隋兵に参加します。私の母校・真和高校のOB会で組織する「真和誠真会」です。10番奉納です。団の前方で、警備隊長を務めます。差し入れをお願いします。


1043号 2022年10月9日

(185)日本の鉄道150年
これからの日本の鉄道と食と酒を考える

◆汽笛一斉新橋を から150年
 10月14日は「鉄道の日」です。1872(明治5)年に新橋〜横浜間に鉄道が開業した日です。今年でちょうど150年を迎えます。
 鉄道は、イギリスにおいて発明されました。1830年、リバプール〜マンチェスターで開業すると、瞬く間に世界中に広がりました。元々は、物資の輸送でしたが、やがて人の輸送にも利用されました。
 江戸時代、藩の外へ向かうことは容易いものではありませんでしたし、山や谷を越えるのも大変でした。鉄道の敷設により、人々は容易に移動することが可能となり、観光ブームが起こりました。
 大正時代には、蒸気機関車を含む鉄道車両はレール製造に国産化が進み、日本独自の進化を遂げてゆきます。そして、今現在の日本の幹線鉄道網が完成するわけです。
 戦前、日本における有名な特急列車は、特急「燕」(つばめ)が1930(昭和5)年に登場します。東京〜神戸間を9時間で結びました。もちろん、蒸気機関車が客車を牽引するスタイルです。
 その後、再び日本の鉄道が、世界をあっと思わせたのは、なんと言っても、1964(昭和39)年10月1日に開業した東海道新幹線「ひかり」号の登場です。時速210q/時・東京〜新大阪間を4時間で結びました。このような新しい技術の粋を結集して、新しい時代の鉄道が次々に生み出されて行きました。その進化は今でも脈々と続いています。新幹線の営業最高速度は300q/時になりましたし、次世代を担う中央リニア新幹線も2027年の開業を目指しています。最高時速500q/時といいますから、途轍もない早い鉄道ができるわけです。
 日本初の駅弁は、1885(明治18)年、宇都宮駅で販売されたそうです。竹の皮に包んだおにぎり2個と沢庵だったそうです。今や駅弁の種類は全国に約3000種類発売されているそうです。車窓を眺めながら、その地域の特産品がぎゅっと折の中に詰められた弁当は、日本の食文化そのものであると思います。
 現在では、全国各地に「ななつ星」を皮切りに豪華クルーズトレインがお目見えして、たいへんな人気を博しています。
 その一方で、全国で過疎化が進み輸送量が少ない地方ローカル線の経営が問題となっています。鉄道は、ネットワーク(路線網)だから意義があるのでありますから、これ以上赤字ローカル線の廃止は望みません。
 全国津々浦々に名産品、銘酒があるのは、これまでその土地を持続可能な限り守ってきた方々がいたからです。
 地域の特産や銘酒を広めるためには、SNSの他に、実際にその地域を訪問できる手段=鉄道の存在は大きなものになっていくと思います。


1047号 2022年12月11日

(186)岩手の銘酒「南部美人」創業120周年

◆岩手の銘酒「南部美人」創業120周年記念祝賀会
 2020年2月から猛威を振るったコロナウイルス。再び人類に大きな恐怖を与えたウイルスです。人流が抑制されて、久々に東北へ出張することができました。今回は、私の他に、私の長男(22歳 大学4年生)を同伴しての親子旅となりました。爽やかな秋風が吹く盛岡へ。それでも残暑というべきか、とても暑い日となりました。
 2022年9月28日(水)、盛岡グランドホテルで行われた「株式会社南部美人創業120周年記念祝賀会」には、鞄部美人・久慈浩介社長が、これまでに故意にしている
・全国各地の銘醸蔵の蔵元
・世界中の南部美人ファンの方々
・全国各地の南部美人取扱店
・酒類業界の先生方
・地元の酒米を造る農家さん
・地元の政治家

が集まっていまして、総勢630名の方々が参加されていました。
 三方を招待者に囲まれるように配置されたステージ中央には、4代目 久慈浩会長、5代目 久慈浩介社長、6代目予定者 久慈太陽くん(20歳 東京農業大学学生で東京農大応援団)三人揃い踏みでご登壇。その後、5代目現当主・久慈浩介社長による歓迎の挨拶。相変わらず、情熱的なスピーチを朗々と語ること45分。南部美人のおいたちや戦前、戦後のこと。東日本大震災からの復興のこと。海外へ日本酒文化を広める活動についてのこと。さまざまな酒類の開発にまつわるエピソード。そしてこれからのこと。さすが、日本酒の伝道師・久慈浩介節が炸裂して、こちらまで、熱い熱い情熱を感じることができました。
 思いおこせば、久慈浩介くんと私の出会いは、1992(平成4)年、私が大学4年生(22)で、久慈浩介くんが大学1年生の時、東京で知り合いました。
 熊本の弊社主催の日本酒の会にもわざわざ参加して頂いたことがあります。二次会で豚骨ラーメンを食べに行って、店員さんの粗相で、スーツにラーメンがこぼれてたいへんな事態になったこと。
 大学で知り合った方=里佳(りか)さんと結ばれ結婚なさったこと。私の長男より2歳年下の久慈太陽くんが生まれたこと。私が南部美人を訪問した時に、故・山口一杜氏と、久慈浩介くんと熱く日本酒のことを語ったこと。そして、本日、久慈浩介くんに挨拶に行くと「宇野旭くん、久慈太陽の時代も宜しくお願いします。」との挨拶がありました。走馬灯のように思い出された思い出。知り合ってからもう30年が経つのですね。
 うちの長男は、どのようなカタチで酒類業界と関わるかは、まだ分かりませんが、次の時代の扉が開かれようとしているように感じました。新しい未来、きっと、もっと、感動のある、美味しい出会いが待っていると思いました。「南部美人」に乾杯!


1051号 2023年2月12日

(187)バレンタインデーにおススメ 『ハートのエース』発売

天花(てんか) 純米吟醸『秋田酒こまち』
ハートのエース無濾過生原酒

 このお酒は、限定流通商品「大納川天花」ブランドの大本命!顔ともいうべき「エース」なのです。「エース」と言えば、あの歌のフレーズが真っ先に思い浮かんだことからハート柄のラベルデザインにしました。(笑)
 ここ地元・秋田県大森町産の(酒米)『秋田酒こまち』を全量使用した、大納川テロワールの中心的存在であり、米農家さん、街の皆さん、そして造り手の私たちみんなの想いをこの一本に詰め込みました。
 ガス感のあるフレッシュさ、蔵付き酵母の華やかな香り、ジューシーな旨味と酸のバランスが絶妙。そこに透明感が加わり甘味を感じながらもスッキリとキレます。
 このお酒で、皆さんの笑顔が増えますように!その笑顔こそ、私たちの活力なのですから。
・取締役社長 稲上憲二さまコメント
プレゼントをして喜ばれる酒です。
もらって嬉しい酒です。
飲んで嬉しい酒です。
バレンタインデーに、お雛祭の酒に、お花見におススメの酒です。

■香味について
やや芳醇&柔口type
【香】心地のよい華やかで、フルーティーな吟醸香。香りのニュアンスとして、マスカットや白玉団子や桜餅をイメージさせる米由来の心地よいフローラル。
【味わい】一口目「旨っ」と思いました。さっぱりとした酸味と甘味が平面的にひろがります。続いて、米の旨味が、音楽でいうところのベースの部分を担っているようで、重奏的な味わいを表現しています。フレッシュな新酒ですが、すでに飲み頃、完成度の高いお酒です。ビギナーにも飲みやすい1本です。

 1800ml 3,520円(税込み)
  720ml 1,870円(税込み)

 

酒おもしろ小話(1)〜(30)  (31)〜(60)  (61)〜(89)

(90)〜(120)  (121)〜(150) (151)〜(180)

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