小児科医のつぶやき 吉本寿美 よしもと小児科医院 |
189号 2003年11月02日 (1)はじめまして?ただいま? 初めまして。10月1日に、菊陽バイパス沿いに開院した、よしもと小児科医院の吉本寿美といいます。今後ともよろしくお願いします。 さて、どうしてこういうタイトルにしたかと申しますと、僕自身がこの町の出身で(実家はブドウ園をやってます)、さくら保育園→中部小学校(昔は木造校舎で、牛乳をこぼしたときは、雑巾を持って下の教室に走って行った記憶があります)という経路を歩んできました。残念ながら中学からは市内の学校に行ったため、菊陽から離れてしまいましたが、今回縁あって地元に戻ってきたこともあり、このようなタイトルにしてみました。 |
194号 2003年12月07日 (2)予防接種について さて、皆さんは予防接種というとどのようなイメージを抱かれるでしょうか?痛い、怖い、面倒だ、副作用は?などいろいろだと思います。今、全国の小児科医が懸命に取り組んでいるのが「はしか(麻疹)」撲滅運動です。 はしかは、発疹、高熱、肺炎などを起こす病気ですが、アメリカ全土での年間患者発生数が100人程度(大半は日本などの海外から持ち込まれた患者です)なのに対し、熊本だけでも年間の患者数は軽く100名を越えると思われます。このことからも、以下に日本での患者発生数が多いのかわかっていただけると思います。 原因は予防接種率の低さにあります。我々小児科医がどんなに努力しても、やはり最後はご両親の理解と協力が必要なのです。1歳になったら、是非はしかの予防接種をしましょう。 予防接種をしたら絶対にかからない訳ではないのですが、重症化を防ぐ意味では大切です。特に小さな子どもさんの場合、インフルエンザ脳炎や脳症になると数時間で命を落とすケースもありますので、面倒とは思っても是非12月中旬までには2回接種を終わっておきたいものです。 「子どもに予防接種を受けさせないのは虐待と同じだ」と言った先生もおられるくらい、予防接種というのは子ども達の健やかな成長のためにはとても重要なものなのです。お子さんの将来を左右するのは、言うまでもなくお父さん、お母さん次第なのです。 |
198号 2004年1月4日 (3)子育て 仕事柄、子育ての相談をよく受けたり、いろんな患者さんやご両親とお話する機会も多いのですが、以下に挙げるのは実際にあった話です。 あと1例これも深夜なのですが、おばあちゃんとお母さんが1ヵ月ほどの赤ちゃんを連れて来られました。診察室に入るなり、おばあちゃんが「先生、ピクピクしてけいれんしているみたいですけど」。とても元気そうで診察しても異常は見つかりませんでした。「モロー反射といって正常な反射だと思います。 病気じゃありませんので、ご心配なく」すると、おばあちゃん曰く「いや、娘はこうはなかったです」と。おいおい、おばあちゃん昔のこと忘れたんですか?しっかり育児を勉強してとは言いませんが、やはり親となる以上は基本的なことくらいは知ってて欲しいと思うことがあります。ただし夜中寝てくれない、1才なのに歩かない、ミルクを3時間おきにやっても飲んでくれない、など教科書通りにいかないのも子育ての難しいところではあります。 経験上、大変なのはすごくわかりますが、それをあまりストレスに感じない方がいいかもですよ。以外と自分だけでなく、他の人たちも同じ悩みを持っているものです。同じくらいの子供さんを持っている方とおしゃべりすると「そうそう」とうなずけることも多いですよ。きちっと子育てするのはすばらしいこととは思いますが、たまには肩の力を抜いてみると、お子さんがもっとかわいく思えるかも知れませんね。 |
201号 2004年2月1日 (4)おもちゃ クリスマスやお正月に、お子さんはどんなおもちゃを買ってもらわれたのでしょうか。最近では、コンピューターや電気で動くおもちゃが主流のようで、なかなか大人にはついていけないところがあります。特にTVゲームの世界は凄いですね。慣れた子どもたちは次々に技を駆使し攻略していきます。 ただ、困ったことに相手を傷つけるようなゲームがあったり、ゲームの途中でリセットしてしまう事もあります。このようなことが、簡単に人を傷つけてしまう現代の子どもたちの行動と関係があるのではないかと危惧しています。たかがゲームだからと言ってしまえばそれまでですが、簡単に相手を殺してしまったり、都合が悪くなるとリセットしてしまう。 昔は喧嘩をして、ここまですると痛いからやめようとか体で覚えたものです。しかし、ゲームではそういう感覚を得ることは出来ません。また、日常生活では都合が悪いからといって簡単にリセットしてやり直すことも出来ません(出来たらうれしいのですが)。そのあたりをうまく教えてあげるのも大人の役目なんでしょうね。たまには寒くても外で遊んでみてはどうでしょうか。落ちてるもので遊んだり、いろんなことが肌で感じられると思います。 おもちゃといえば、最近木のおもちゃがブームのようです。医院のプレイルームでもみんな夢中になって遊んでいます。こんな遊び方をするんだと感心することもしばしばです。帰りたくないと言って、かえって困っておられるお母さんたちもいらっしゃいますが。 ただ、問題なのは日本製が少ないためか、金額が少々高いことでしょうか。しかし、耐久年数も優れ、暖かみも感じられる木のおもちゃは本当にいいものです。もし、興味のあるお母さん方は一度お店に出かけられてはいかがでしょうか。但し、子どもさんが帰らないと泣くのは覚悟の上で…。 |
206号 2004年3月7日 (5)少子化と小児医療 日本では急速に少子化が進み高齢化社会に突入しましたが、具体的な政策は一向に見えてきません。予算は組まれているようですが、果たして適切な所に配分されているのでしょうか。小児医療についても同じようなことが起こっているようです。 それでも、こうして多くの先生が小児科を続けているのはなぜなんでしょうね。単に子どもが好きだからという簡単な理由だと思います。小児科医は「天使に一番近い職業」っていう国もあるのですが、まだまだ日本では難しいですね。 |
210号 2004年4月4日 (6)専門医 〜子どもは小児科へ〜 遺伝子組み換えの安全性についての疑問が拭い去れないまま、遺伝子組み換え作物は食品となり、日本で消費され続けています。アトピーなどのアレルギーに悩む人が増ええたこと、健康食品や栄養補給食品がこれほどまでに売れ、健康に関する情報は毎日のように流されているにもかかわらず、医療費が増え続けていること、高齢化社会だけがその理由ではないような気がします。 |
214号 2004年5月2日 (7)今流行している病気は? 暖かくなり、過ごしやすい季節になりました。今年は、幸いインフルエンザの大流行もなく、B型もまったく流行しませんでした。最大の理由は予防接種を多くの方が受けられていたためではないかと思います。菊陽町では、町からの助成があり負担金も少ないのも後押ししてると思います。4町合併後も維持できるよう、現在南部4ヵ町村の小児科医が話し合いを行っており、各自治体に働きかける予定ですので、住民方々も応援をお願いします。 |
218号 2004年6月6日 (8)たかがアトピーとはいうものの・・・ アトピーといえば、アレルギーと同義語のように思われがちですが、本来は同じではありません。アレルギーという言葉は約100年前に初めて論文に登場しましたが、現在では○○アレルギーなどのように拒否的反応として使うことが多いようです。実際はアレルギー反応というと大きく4つに分類され、アレルギー性鼻炎や喘息のようなT型反応や、アトピー性皮膚炎(AD)のようなW型反応(ADはT型ともいわれますが)などがあります。 |
222号 2004年7月4日 (9)自然とふれあおう 最近は、外で元気よく遊んでいる子どもたちが少なくなったように思います。少子化の影響もあると思いますが、子どもが被害を受ける痛ましい事件があまりにも多くなったため、外で遊んでおいでとは簡単に言えなくなったのも関係しているのでしょうか。僕らが小さい頃は考えられなかったことですが、残念な事です。 葉祥明阿蘇高原絵本美術館 |
226号 2004年8月1日 (10)ワクチンと水銀の問題 予防接種が子どもたちの健康を守る上で重要な役目を果たしていることは周知の事実です。しかし、種類が多く、どのくらい間隔を空けたらいいか、わかりにくい点もあり、1歳半健診の時点でもまだ接種をしてないお子さんも結構いらっしゃいます。そういう理由とは別に「水銀が入ってるからしたくありません」と言われる方もたまにいらっしゃいます。テレビの報道を見られたためと思うのですが、やや偏った報道であったとも聞いています。特に、熊本は水俣病の発生した場所でもあるため、過敏になられるのは仕方ないことなのかもしれません。 最近ではチメロサールを含まないワクチンもありますので(但し、それにもチメロサールの代替物が含まれていますが)どうしても心配ということであればそちらを選択されてもいいでしょう。 |
230号 2004年9月5日 (11)イオン飲料について それにしても、今年は暑いですね。こんなに暑いのは熊本でも珍しいのではないでしょうか。いろんなニュース番組で熱中症のことが報道されており、予防には充分な休息と水分補給が重要ですが、果たしてどんなものを飲めばいいのでしょうか。 |
234号 2004年10月3日 (12)子どもの事故について この10月で当院も開院1周年を迎えます。その間、病気の方はもちろんですが、事故の患者さんも多く来院されました。なかでも、誤飲や打撲などのお子さんが多く受診されました。 以前は不必要な胃洗浄をやっていましたが、現在はほとんど行いません。もともと美味しいものではないので、そう食べられるものではありません。2センチ以上食べたとか浸出液を飲んだ場合には胃洗浄も必要となってきますが、基本的には手を使って吐かせる以外の処置は不要です。その他では、ボタン電池、おもちゃ、灯油など誤飲したケースもありますが、処置がいろいろ違いますので、まずは受診されて下さい。 また、以前経験した例では、呼吸停止で運ばれてきた子どもが実は10円玉をのどに詰まらせて窒息していたというようなこともありました。 また、転落事故の赤ちゃんもよく受診されます。「キャリーバッグ」から落ちたとか、ベッドから落ちたとかが多いようです。大丈夫なことがほとんどですが、うっかりでは済まされない事態になることもありますから、十分注意が必要です。 その他には、夏場に多いと思われがちな溺水は以外と寒くなってからも多く、開業前には自宅の風呂場での溺水を時々経験しました。お湯を残したままにしておいたら、ふたの上で遊んでいて子どもが落ちていたというケースはよくあります。小さい子どもさんがいらっしゃるところは、風呂のお湯は残さないようにして下さい。 病気は仕方のないことですが、事故は結局は親の不注意で起こるものです。子どもは大人が思いもつかないことをしますので、小さなお子さんのいらっしゃるご家庭は安全な環境作りに気を配られるようお願いします。 |
239号 2004年11月7日 (13)感染症迅速診断キットについて 最近の感染症迅速診断キットの進歩には、目を見張るものがあります。現在臨床応用が可能なキットは100種類以上あると言われています。また、問題となっているSARSウイルスも迅速診断が可能になってきているようです。小児科関連でよく使用するものとしては、溶連菌、インフルエンザ、アデノウイルス、ロタウイルス、RSウイルス、マイコプラズマなどの診断キットがあります。 測定原理は幾つか方法があり、やや専門的になってしまいますのでここでは省略しますが、小児科外来で利用するキットはほとんどが15分以内に判定が可能で、しかも操作も簡単なことから急速に普及してきました。近頃は一般の患者さんのほうが詳しくて、「・・の検査をして下さい」と言われることもしばしばです。ただ、検体採取においては咽頭や鼻腔から行うため、どうしても小児の場合は検体が十分に取れない場合もあり、本来は陽性なのに検査では陰性に出てしまうこともあるため、検査結果だけでは間違ってしまう可能性もあります。 ロタウイルス感染ではなかなか下痢が止まりません。このように、検査結果からある程度病状を予測したり、不必要な抗生剤の投与を避けることも可能になり、その結果最近問題になっている耐性菌の出現を防ぐことにもつながります。 |
247号 2005年1月3日 (14)抗生物質について 今年も宜しくお願いします。 例えば突発性発疹という病気は、HHV-6(または7)というウイルスの感染による疾患で、解熱後に発疹が出てきて突発性発疹でしたねとなるので、最初から確定診断することはなかなか難しい病気です。この場合抗生物質が必要かどうかなのですが、一般的にはウイルス感染症ですからほとんど効果はありません。 しかし、私も含めてどうしても最初は他の病気も考えて抗生物質を処方することが多いようです。溶連菌感染症のように絶対抗生物質が必要な病気もあるので、この場合は熱が下がっても内服を続ける必要がありますが、同様に他の発熱した疾患にも「まずは抗生剤を・・」という治療が日本では主流です。 |
251号 2005年2月6日 (15)小児白血病 〜治癒する病気〜 開業以来、お付き合いしていただきましたが、今回を含めてあと2回で私の連載も終了することになりましたので、今回は開業するまで携わっていました小児の白血病についてお話ししたいと思います。 でも、医者になりたての頃は白血病は厳しいなという印象があり、再発したり死亡する子どもたちも、たくさん診てきました。今のように骨髄移植などの先端医療がどこでも出来るわけではなかったので、近年の診断、治療の進歩はすばらしいものがあります。 熊本県下でも、年間10数名の新しい白血病患者が発症しています。きっと皆さんの周りにも、白血病になられたお子さんがいらっしゃるかも知れませんが、たまたま病気になっただけで、治癒すれば何も心配はありませんので、普通のお子さんと同じように接していただければと思います。開業後は急性期の白血病のお子さんの診察は出来なくなりましたが、今後も何らかの関わりを持ち続けたいと考えています。 |
255号 2005年3月6日 (16)これからの小児医療 今回で、私の連載も終了することになりましたので、最後に小児医療について思いついたことを述べてみます。 夜間救急についても、熊本は受診できるシステムが出来ていますので今のところは安心ですが、小児科開業医も高齢化が進んでおり、いつまで今のシステムが成り立つかわかりません。また、小児科は女性医師の割合がますます多くなってますが、これもいろんな問題を含んでいます。 結婚、出産との両立が難しく(産休はまず無理)、仕事を辞められる先生も多く、これが医師確保を難しくしているのも事実です。まだまだ明るい未来というわけにはいかないようです。 予防接種に関しては、BCG接種が直接接種になり生後6ヶ月までの接種になりました。また、麻疹と風疹の予防接種が2回接種に変わる予定です。その他にも幾つかワクチンの治験が進んでおり、新たな予防接種が加わることも予想されます。それから、県では予防接種の広域化の問題が検討中です。 例えば、阿蘇の子どもさんが熊本市で接種するためにはいろんな手続きや費用がかかるのですが、それを県内どこでも無料で接種出来るようにしようという試みです。既に一部の県では始まってますので、何とか熊本でも実現して欲しいのですが、各自治体の予算の関係などでなかなかうまくいってないと聞いています。 もう少し、小児医療に理解を示して実現して欲しいと思うのですが、無理なのでしょうか。健診についても熊本市と同様に何とか集団でなく個別でとお願いしてますが、実現にはまだ時間がかかるようです。 |