たわらや酒店 宇野功一
(141)地酒途中下車越後線小島谷駅(新潟県)
夏子の酒「清泉・亀の王」純米吟醸酒
東西に広大に広がる越後平野。信濃川が作った広大な平野は、日本屈指の米どころです。越後平野の新潟駅から柏崎駅までの83.8kmを、大動脈の信越本線より海沿いを走るローカル線が越後線です。途中駅の小島谷駅という無人駅に下車してみました。駅の周りは一面田んぼ。この時期はカエルの大合唱が聞こえてきます。この駅のそばに今月話題の酒蔵があります。清泉(きよいずみ) 亀の王(かめのお)を醸(かも)す久須美酒造へご案内致します。
◆夏子の酒
1988年〜1991年の間、週間モーニングで連載された尾瀬あきら著の漫画「夏子の酒」はご存じでしょうか。私はちょうど大学生で毎週楽しみにして読んでいました。
夏子の酒のストーリーをかいつまんで話します。〜実家を継ぐ予定の夏子の兄が倒れた。東京で広告代理店に勤める夏子は知らせを受け、故郷に帰宅する。新潟で酒蔵を経営する実家は何も変わらず、兄も元気そうであった。兄は自分の夢を夏子に聞かせる。「幻の米、龍錦を栽培し、いつか日本一の酒を造りたい」と。その後、兄は他界。夏子は兄の夢を実現すべく、酒蔵に入り、稲を育て、酒を醸す。〜夏子の酒に描かれているのは伝統を守る蔵と、そのまわりに住む人々のさまざまな関わり、環境・農業・後継者問題、農村と都市の格差などなど。間接的に問題提起をしました。そして最後、龍錦を使って今までに飲んだことのない酒を完成させるという物語です。
◆夏子の酒のモチーフ・久須美酒造
夏子の酒の幻の酒米・龍錦は実は「亀の尾」のことです。これは物語ではなく、実際に久須美酒造(清泉・亀の王醸造元)が歩んで来た物語なのです。
1980年代、久須美記廸氏が専務時代のこと。越後杜氏の長老・河井 清杜氏から「昔飲んだ『亀の尾』で造った酒の味が忘れられない」と聞いたことがありました。新潟県農業試験場からわずか1500粒(35g程度)の種籾を入手。これを自家田で栽培。収穫にみごと成功。その酒米で造った清泉「亀の翁」という純米大吟醸を世に問うたのです。そのストーリーと酒が一躍脚光を浴び、清泉は多くのファンを造るに至りました。
◆夏酒一献 清泉「亀の王」
清泉「亀の王」は、「亀の尾生産組合」が栽培した「亀の尾」を掛米に、麹米には兵庫県産の「山田錦」を用いて「麹蓋(こうじぶた)」による丁寧な麹造りを行い、それぞれ55%まで精米し、厳冬の時期に低温でじっくりと醸された酒です。出来上がった酒を蔵内で約3ヵ月熟成させて、弊店に6月6日にお目見えしました。
○酒のコメント…酒名のごとく、繊細で清らかな上品な香味です。ほのかにフルーティーな吟醸香があり、口に含むと同じ香りが上品に広がります。単なる淡麗というのではなく、心地よい米のほのかな旨さが絶妙です。暑い夏に、冷ややロックで飲みたい一本です。日本料理はもちろん、洋食との相性もよく、昔の酒米「亀の尾」とそれを醸した久須美酒造の凄さを感じました。
【清泉 亀の王 純米吟醸 生貯蔵酒】
原料米 麹米:山田錦 掛米:亀の尾
アルコール度数 14.0%
1800ml 2,858円(税別)
720ml 1,429円(税別) |