三里木区 たわらや酒店 宇野功一
(136)地酒途中下車 飯山線 飯山駅(長野県)
水尾の生まれる蔵 その2
あけましておめでとうございます。今年、西暦2018年は明治維新から150年を迎えます。明治維新はさまざまな見方がありますが、日本の近代化、鎖国を廃し開国、廃藩置県などなど、これまでの制度が現在のような制度へと抜本的に、それも短期間に一度に変革した時代のように思います。今年、最初に取り上げる酒蔵は、クールジャパンを推進する国策の理にかなった取り組みを平成元年からやってきた酒蔵です。これからの日本酒の蔵が目指す一つのビジネスモデルのような気がしましたので、新年号に取り上げました。
◆グローバルでローカルな地酒・水尾
水尾醸造元である田中隆太氏は1965年生まれ。青山学院大学経済学部卒業後、外資系企業のシステムエンジニアとして就職をする。時は80年代後半。日本は空前のバブル経済真っただ中。1989年、結婚を機に地元・長野県飯山市の酒蔵へ戻る決断をしたという。飯山の田中屋酒造店は、明治元年創業。田中はこう語ってくれた。
「地元流通用の普通酒がメインで、日本酒の原料である水と酒米には全く無頓着でした。私は酒を醸(かも)すことは勉強していませんでしたので、当時東京都北区滝野川にあった醸造試験所で醸造を学びました。その醸造試験所の恩師から“これじゃ〜ダメだ”と叱られ、基本からやり直しを迫られたんですよ」
田中屋酒造店の事務所で、お茶を飲みながら当時のことを語ってくれた。『恩師の先生は?』と 尋ねると、当時醸造試験所第3研究室室長であった戸塚 昭先生というではないか。実は戸塚 昭先生は、私に醸造学を教えてくれた先生。同じ恩師から醸造学を学んだことから話が弾む。
“うまい純米酒を造る”小さな地酒酒蔵が生き残るための命題。仕込み水を求めて東奔西走。蔵から15qほど離れた野沢温泉村・水尾山麓に湧く軟水と巡り合う。酒米は、千曲川を挟んだ特Aランクのコシヒカリを作る一帯がある。そこで酒米・金紋錦を栽培。こうして1992年に「水尾」が誕生した。
恩師、戸塚先生も納得した酒質に仕上がったのだが、売り先が…。
都会の有力酒屋にはつてがない。田中は困った。酒蔵の地元野沢温泉郷は、温泉とスキーの観光客でにぎわう地域。地元の温泉宿に「水尾」のうまさを説明し、地元の酒屋で当主自ら試飲販売を実行。継続は力なり、発売20年目ほどで、ローカルなブランドから長野を代表するブランドへ。そして今や日本を代表するブランドに成長。淡麗辛口でバランスのよい絶秒の味わいは、日本料理に相性が抜群。品の良さが際立つ。ローカルなインバウンド需要から、今ではアウトバウンド需要と、双方へブランド力を育んだ蔵元とその地元。本物の酒質で、本物の酒蔵が目指すビジネスモデルに触れた気がした。今年は「水尾」を飲んで、新年を祝う。
平成30年元旦。
【水尾 特別純米酒】
原料米 長野県木島平村産 金紋錦
精米歩合 59% 日本酒度 +1 度 数 15.5%
価 格 1800ml 2750円(税別) 720ml 1400円(税別)
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