自家焙煎珈琲 しゃらん 舩元 優二
(3)珈琲の神様、関口一郎」
東京・銀座の「カフェ・ド・ランブル」オーナー関口一郎さんは、大正3年生まれの103歳の焙煎職人である。
私と関口さんとの出会いは、7年前の96歳になられる頃。年齢も国籍も着ている服も異なる人々は「カフェ・ド・ランブル」の珈琲を飲むという目的意識において一致している。それぞれのテンションで珈琲と向き合っている。おいしさの狙いどころも方法論も刻々と変わる珈琲業界の中で、「カフェ・ド・ランブル」は常に、ランブル・イズ・ランブル。どの群れに交わることなく、淡々と珈琲だけの店であることを続けた。独自の道を歩いてきた。言ってみれば異端者だ。今カウンターに立つことはない。けれどちゃんと店にいて、焙煎室の隣にある半畳ほどの書斎に座っている。今でも、たまに豆を焙いているという。
珈琲との出会いは、彼が十代の頃、浅草住まいの家族とミルクホールへ食事に行った時のこと。もっと飲んでみたいと飲み歩き、すきっと抜けるようなきれいな味に魅了されたそう。ランブルとは、アンバー(琥珀)という意味。理想地点を目標に戦前から検証を重ねて、挽き方、抽出方法を探り、たどり着いた答えがネル・ドリップだった。ネルとは、厚手の綿布を縫い合わせたフイルター。豆を焙く焙煎機、砕いて粉にするミル、ポット、ネル、コーヒーカップに至るまですべてオリジナル。不満や欠点を一つずつ潰しては検証し、良い方を選択するというやり方で決まっていった。人の情報はうのみにしない。経験して覚え、経験して発見し…。その繰り返しで自分のメソッドを作り上げようとする。「紙一重の向上心」と彼は表現する。紙一枚分しかない薄さ、その地道な積み重ねにより、答えが見えてくると、神様は言う。
彼の言葉「今、みんな知識はものすごくあるけれど、でも珈琲を目や耳で飲んでいるのですね。自分の舌で飲んでいない」信じられるのは自分の舌、つまり経験だけであるという。珈琲屋を続けていて良かったこととは?「お客さんと対話ができて、喜ぶ顔が目の前で見られる。喜ぶ声が聞ける。それが毎日続くこと」人生を賭ける仕事の動機!!
参考文献:井川直子書 昭和の店に惹かれる理由
人の嗜好はそれぞれ違います。自分の舌で感じた珈琲に巡り合えた時、人は、大きな喜びを感じて幸せな気分になると思います。私も、至福な一杯の珈琲を追い求めて、経験を重ね、もっと、お客様の喜ぶ顔や、喜ぶ声を聞きたい。珈琲の神様に少しでも近づけるよう、焙煎を続けたいと思います。
「マンデリン」
生豆は独特の深緑色で粒が大きく、焙煎すると、まろやかさを併せ持った他に類を見ないコクがあります。
自家焙煎珈琲 しゃらん
光の森7丁目17−5 TEL:096−202−6793 |