緑ヶ丘区 弁護士 衛藤二男
(35)家族信託A
今回は、前回の事例を図示しましたので、それを参考に説明します。まず、事例において考えられるAさんの遺言について考えてみましょう。
遺言する場合に重要で大きなポイントは2つです。まず、遺言者がご自身の財産(将来の遺産で、遺言の対象となる財産)を正確に把握しておくことです。次にその財産をどの相続人に、どのように相続させるかということ、すなわち、遺産の分け方の問題です。なお、遺言をしていなければ、民法が定める法定相続分に従うことになります。
まず、Aさんの妻が認知症ということですから、自分の亡きあとの妻Bさんの生活のことが一番の心配事ではないでしょうか。そこで、自己の財産のうち、妻Bさんの生活費や施設費(将来、施設に入所することが予想される)のために、定期的な収入である賃貸マンションの賃料収入をBさんに相続させることが考えられます。なお、Bさんは認知症で自己の財産管理能力に問題がありますので、別途、成年後見制度の活用を考慮する必要があるでしょう。特に長男Dさんからの金の無心のおそれがありますので、そのことからもBさんには成年後見人が必要と思われます。ただ、遺言により成年後見開始の申し立てはできませんので、これをAさんがするとすれば、Aさんの生前にすることになるでしょう。
次に無職・無収入で浪費家の長男Dさんについてですが、遺留分がありますから、相続開始後において、遺留分による紛争が起こらないようにしたいものです。そこで、遺言でDさんの遺留分を考慮し、その分をDさんへの相続分として遺言しておくと良いでしょう。なお、Dさんが被相続人に対して生前に暴力をしていた等の事情がある場合など、一定の場合には家庭裁判所へ相続人廃除の申し立ても考えられますが、これは容易に家庭裁判所で認められません。またDさんの浪費癖からすると、相続で取得した遺産は浪費によってすぐになくなってしまうことが予想されますが、Dさんの財産管理能力に問題がない以上、浪費による財産の散逸は防止できません。
以上に加えて、遺言はあくまでも相続開始後に効力が発生するものですから、相続開始前のAさんの心配事の解決には役立ちません。
では家族信託という制度を使うとどうなるでしょう。次回に続きます。 |