弁護士 衛藤二男 緑ヶ丘区
(29)自然災害による被災者の債務整理
●相談
自宅のローンやその他の借入があり、地震の前は返済に特に問題はなく返済できていました。今回の地震により勤務先が大きな被害を受けたために収入が大幅に下がり、これまでのようにローン等の返済を続けていくことが難しくなりました。取引銀行に相談したところ、このような場合、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」というものがあるので、これを利用したらどうかとアドバイスを受けました。このガイドラインというのは、どのようなものでしょうか。
●回答
「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下、本ガイドラインと言う)は、災害救助法の適用を受けた自然災害の影響を受けたことにより、住宅ローンや住宅のリフォームローン、事業性ローン等の債務の返済ができなくなった個人の債務者について、一定の要件の下に、債権者(主として金融機関)との合意に基づいて、債務の全部又は一部を減免する等により債務の整理をし、その債務者の自助努力による生活再建や事業再建を支援するためのガイドライン(準則)のことです。本ガイドラインは、債務の返済ができなくなった債務者は、本来であれば、自己破産や民事再生手続等の法的債務整理手続を取らざるを得ませんが、これとは異なり、自然災害による被災者の生活支援や個人の事業再建を支援するために特別に考慮された一種の私的債務整理手続です。
本ガイドラインによる債務整理手続を取った場合の利点は、次の4点です。
@法的債務整理手続の場合においては、個人の債務者は信用情報登録機関に一定期間登録される(いわゆるブラックリストへ掲載される)ことがありますが、本ガイドラインによる債務整理手続が取られた場合は、それができないようになっています。
Aまた、一定の金額を債務の返済に回すのではなく、債務者の手許に残すことが認められています。現金・預金は最大で500万円、家財地震保険金は最大で250万円まで残せますし、被災者生活再建資金や災害弔慰金・災害障害見舞金や義援金なども、手許に残すことができます。
B通常であれば債務について保証人がいる場合が多く、債務者が返済できなくなるとその保証人が保証債務の履行として返済の義務を負うことになりますが、本ガイドラインによる場合には、原則として、保証人への請求ができなくなります。
C更に、本ガイドラインによる債務整理手続を取る場合、登録支援専門家(弁護士、公認会計士、税理士、不動産鑑定士等)による無料の支援を受けられます。
このように本ガイドラインによる債務整理手続は、自然災害により被災した債務者の生活再建、事業再建を支援するための特別の債務整理手続ですが、これを利用できる債務者についてはいろいろと要件がありますし、また手続の流れもわかりにくいところがありますので、次回にお話します。
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