弁護士 衛藤二男
(28)地震に関する相談B 借家関係の続き
◆相談
鉄骨造り2階建ての賃貸アパートの住人です。家主さんから、このアパートは築後既に30年を経過しており、このたびの地震により建物が大きな損傷を受けて危険だから取り壊したいので、近いうちに退去して欲しいと云われています。建物の罹災証明書発行のための被害の調査では「半壊」と判定されていますが、アパートの敷地には大きな亀裂や段差を生じています。
このアパートには私を含めて6世帯が居住していましたが、私以外の5世帯は、家主さんから立退料をもらって退去したそうです。私は、このアパートから退去しても転居先として住む場所がないので、退去したくはありません。アパートから退去しなければなりませんか。
◆回答
@ まず、地震によるアパート建物の損傷の程度ですが、被害調査の結果が「半壊」であったとしても、その敷地が亀裂や段差を生じている状況次第によっては、当該建物は「大規模半壊」、「全壊」と判断される可能性があります。また、建物や敷地の客観的な損傷の程度が「大規模半壊」または「全壊」に至らないとしても、その損傷を修繕・修復する場合の費用が多額を要し、新たに建物を再築した場合と費用的には殆ど同じかそれ以上の費用が掛かる場合は、経済的な観点から当該建物は建物としての効用を喪失しているとして「全壊」と評価される可能性があります。本件の場合は、建物の損壊の程度により、以下のように判断されるでしょう。
A 当該アパートの建物が「一部損壊」や「半壊」の外、「大規模半壊」ではあるが、多額の費用を掛けずに修繕が可能の場合、家主(賃貸人)には修繕義務があり、賃借人はその修繕を拒否できません(民法606条)から、賃借人は修繕するのに立ち退きが必要なときは、一定期間の立退きを拒否できません。なお、立退期間中の賃料は、建物の使用収益ができないから支払う必要はないでしょう。立ち退きをせずに修繕ができる場合で、その修繕のために建物の一部を使用できなかったときは、賃料の一部減額を請求することも可能です(民法第611条1項)。
B 上記Aの場合において、賃貸人が、建物や敷地の修繕義務を果たさずに、賃貸借契約を解除(解約)して賃借人を建物からの退去させることができるでしょうか。当事者間の合意によって賃貸借契約を解約することは別として、賃貸人が一方的に解約することは認められません。賃貸人が契約の解約又は期間満了後の契約更新の拒絶をするには、賃貸人や賃借人が建物を必要とする事情、賃貸借契約の経過、建物の利用状況のほか、賃貸人が建物の明渡し条件としてまたは明渡しと引替えに賃借人に提供する立退料等を総合的に判断して、解約に正当事由が必要です(借地・借家法28条)。本件でも、正当事由の有無により解約が認められるかどうかと共に退去するべきかどうかが決まります。
C 最後に、建物が「全壊」、又は「大規模損壊」・「半壊」であるが修繕に要する費用の多寡という経済的観点を加味して「全壊」と評価される場合は、賃貸借契約の目的物が「滅失」していると考えられます。この場合は、当該賃貸借契約は当然に終了すると解されますので、賃借人は、アパートから退去しなければなりませんし、立退料の請求もできません。
|