弁護士 衛藤二男
このたびの熊本地震により被害を受けた皆様には、心よりお見舞いを申し上げます。さて、今回からは予定を変更し、熊本地震に関連する様々な問題について、法律相談という形式でお話を進めて行きたいと思います。
(27)隣地との関係
◆相談その1
今回の地震で、隣地の住宅の屋根瓦が自宅の駐車場に駐車していた自動車(250万円相当)の上に多数落下し、自動車が大破してしまいました。隣の住人に対して損害賠償請求できるでしょうか。
◆回答
損害賠償請求することは難しいと考えます。このたびの熊本地震は最大震度7、しかも立て続けに2回ありました。地震の規模からしても予想外のものであり、震度7が1回であっても「不可抗力」と認められる可能性は極めて高いと考えられます。土地の工作物等の占有者や所有者にはその設置・保存に瑕疵(かし)があって他人に損害を与えた場合は、原則としてそれを賠償する責任があります(民法717条)。しかし、今回の地震の場合は誰も予想できなかった天災でありますので、それを予想して屋根瓦の落下防止措置を取るべき義務があったとまでは言えません。その意味で「不可抗力」であり、その責任を問うこともできないと考えられます。
自動車保険に加入しており、その保険に地震特約が付されていれば保険で賄われる可能性はあります。
◆相談その2
隣の家のブロック塀が地震で基礎部分から倒壊して私の家の庭に散乱しています。隣人にそのブロック塀の撤去をお願いしたのですが、自分の責任ではないと言って取り合ってくれません。隣人に代わり、とりあえず私が費用を出して撤去することはできますか。その場合、費用の請求を隣人にすることはできますか。
◆回答
自分の所有する土地上に他人の倒壊したブロック塀が散乱して土地所有権を妨害していますので、本来であれば、土地所有権に基づく妨害排除請求として撤去請求できますし、その費用の請求もできると考えられます。しかし、前述の通り、今回の地震は「不可抗力」と認められることから、隣人にその責任を問うことは難しく、倒壊して散乱しているブロック塀の撤去やその費用の請求をすることも難しいと思われます。ただし、同じ地震でもその程度が震度5程度で外のブロック塀は倒壊していないのにこの場所のブロック塀だけが倒壊した場合や、ブロック塀の設置工事に明らかな手抜きがあった(たとえば鉄筋が入っていなかった)場合などは、責任を問うことは可能です。
なお、今後も隣人としての付き合いが続くことを考えると、費用の折半ということで話し合いによる円満解決を図った方が良いでしょう。 |