たわらや酒店 宇野功一
(117)球磨焼酎放浪記 −4− 球磨の泉・那須酒造場をたずねる
◆クセがあるところがおもしろい
2013年春季全国酒類コンクール(全国日本国際酒類振興会主催)本格焼酎部門第1位に輝いた球磨焼酎「球磨の泉」の那須酒造場(熊本県球磨郡多良木町・那須富雄社長)を訪ねた。のどかな田園風景が広がる水田の一角にある小さな蔵だ。
◆昔ながらの香味の球磨焼酎・球磨の泉
創業は大正6年(1917)で、社長であり杜氏でもある那須富雄さんは三代目。造られている銘柄は、真っ赤なラベルの「球磨の泉」一筋だ。バリエーションには、常圧焼酎では、一切加水せず熟成させたアルコール分36度の「原酒」と、それに仕込水で割水をし、アルコール分を飲みやすい25度に調整した焼酎が基本。平成2年より減圧蒸留機を導入し、造りの一部を飲みやすい減圧蒸留・球磨の泉25度を発売している。
◆いまでも手作りによる麹造り
那須酒造場は、麹室は外壁が石積みで、内面は湿気に強い檜板を張り、内部に籾殻を詰めた伝統的な「石室(むろ)」。その中では、日本酒蔵で吟醸酒を仕込む時と同じように、もろ蓋(ふた)使った伝統的な手作り麹造りだ。
手作りは言葉でいうには簡単だが、昼夜を問わず2時間おきに麹米を手入れしなければならないので、夜もおちおち眠れない。日本酒造りと同じように、一番大切なポイントは麹造り。一番手間がかかるのも麹造り。
そのため、多くの酒蔵では麹造りは現在では機械造り、もしくは簡略化が図られており、伝統的な石室による麹造りが少なくなってきた。
◆一次・二次仕込ともにかめ壺仕込
焼酎造りでは麹に酵母と水を加えて、1週間程度発酵させ一次仕込を行う。酵母をたくさん増殖させる。日本酒でいうと酒母造りに当たる。
この一次仕込の醪(もろみ)に水と蒸し米を加えて、2週間程度発酵させる。これが二次仕込。ここでは麹菌がつくる酵素の働きで、蒸し米のデンプンが糖化され、糖化された糖分を酵母が、アルコールへと変えてくれる。焼酎は温暖な地方で造るので、醪が非常に酸敗しやすい。しかし、温度の変化に影響を受けないように陶器の千杯甕(せんばいがめ、ひしゃくで千杯汲めるの意)は、深く地中に埋めこんである。「球磨の泉」は全量をこのかめ仕込みで造られている。出来上がった醪は、常圧蒸留され、36度の原酒のままで貯蔵。これを3〜4年以上寝かせて、完成。手間暇かかった球磨焼酎の逸品がここに誕生。
ふんわりと上品な甘い味わいの米焼酎。口の中でまろやかな円熟味が広がる。ぜひ、晩酌酒としておススメしたい球磨焼酎だ。
球磨の泉 25度常圧
1800ml 2000円(税別) |