(19) 弁護士 衛藤二男
いろいろな相続の仕方@
今回からは、相続の仕方である単純承認、限定承認及び相続放棄についてです。
そもそも相続というのは、被相続人の死亡という事実が発生することにより、被相続人の財産に関する権利義務(積極財産である資産と消極財産である負債の両方)を被相続人と一定の身分関係にある人(相続人)が承継することです。相続は、相続人にとっては利益になる場合(資産の方が多い場合)もあれば、逆に不利益になる場合(負債の方が多い場合)もあります。また、被相続人の負債の方が多くても相続した資産の範囲で被相続人の負債を弁済するのであれば相続人には不利益は生じません。そこで、民法は、相続人が被相続人の権利義務をどのように承継するかという相続の仕方として、単純承認、限定承認及び相続放棄という3つの方法を定めています。
ところで、相続人が相続に当たってどのような方法をとるべきかを決定するには、そもそも相続財産にはどのような財産があるかを調査する必要があり、民法もそのことを認めています(民法第915条第2項)。また、調査のための期間やどのような相続の方法をとるべきかを考える熟慮期間として、相続の開始を知ったときから3ヵ月という期間が設けられていますが、この期間は、必要があれば家庭裁判所へ期間の伸張を申し立てることもできます(家審第9条第1項甲24号)。
こうして、最終的には相続の仕方を決めることになるわけですが、単純承認というのは、相続人が被相続人の権利義務を無限に承継することです。すなわち、単純承認すると、相続した相続財産と相続人の固有財産は一体となって、被相続人の債務は相続人が全部弁済する義務が生じ、被相続人の債権者は相続人の固有財産に対しても強制執行することができることになるのです。したがって、単純承認は、相続財産のうち資産よりも負債が多い場合は、相続人にとっては不利益になりますので、十分な相続財産調査のうえで慎重にする必要があります。
では、どのような場合に単純承認になるのでしょうか。民法は、単純承認の意思表示をする場合のほかに、次の3つの場合を単純承認したものとみなす、としています(第921条)。
@保存行為と一定期間の賃貸借(民法第602条の短期賃貸借)を除いて、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき。
A相続人が自己のために相続開始があったことを知ったときから3ヵ月以内に限定承認または相続放棄をしなかったとき。
B相続人が限定承認または相続放棄をした後であっても、相続財産(これには相続債務も含まれます)の全部若しくは一部を隠匿し、秘かにこれを消費し、または悪意でこれを相続財産目録に記載しなかったとき。
限定承認や相続放棄は、後に述べるように、一定に期間内に家庭裁判所へ限定承認または相続放棄をする旨の申述をしなければなりませんが、単純承認は、家庭裁判所で特に申述の手続をする必要はありません。
(次号へ続く) |