(14) 緑ヶ丘区 弁護士 衛藤二男
前回に引き続いて、「遺留分」のお話です。事例は、次の通りでした。
被相続人である甲には、長男A、長女B、二女Cがおり、甲の妻は既に他界している。長男Aは父甲と同居して長年に亘って家業を手伝い、結婚後も夫婦で甲と同居して生活を共にしてきた。他方、長女B、二女Cは高校、大学を卒業後は嫁いで他県で生活している。甲の遺産は、不動産(3000万円相当)と定期預金4口合計1500万円。甲は公正証書遺言をしており、それによると、長男Aには不動産と定期預金の一部を、長女Bと二女Cには定期預金の中からそれぞれ300万円を相続させる、となっている。
●本件公正証書遺言と遺留分の関係
まず、本件公正証書による遺言は、遺留分権利者である長女や二女の遺留分を侵害しているでしょうか。被相続人甲の相続人は、子A、B、Cの3名だけですから、3名の遺留分権利者の各遺留分は、遺産総額(4500万円)×1/2(総体的遺留分:遺留分権利者全体に帰属する相続財産部分)×1/3(法定相続分)=750万円となります。他方、公正証書による遺言では、長女Bと二女Cは300万円ずつの相続ですから、450万円(750万円−300万円)に相当する部分について各自の遺留分が侵害されていることになります。
●遺留分減殺請求権
では、長女Bや二女Cは、侵害されている遺留分をどうすれば、回復できるでしょうか。この点について民法1031条は、「遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び…贈与の減殺を請求することができる。」と規定しています。具体的には、遺留分を侵害されているBとCは、遺留分を侵害して遺贈を受けている長男Aに対して、各自が遺留分を侵害されている450万円の限度で遺贈を減殺します、という意思表示をすることになります。この意思表示は、通常は内容証明郵便で行うのが確実です。
●遺留分減殺請求権の行使
遺留分減殺請求権は、その意思表示をすることにより法律上は当然に減殺の効力が生ずるとされています(判例)。したがって、減殺の結果生じた権利関係を前提として、通常は、家庭裁判所に対して調停の申立てをします。遺留分減殺請求は家事審判事項ではありませんので、調停が成立しないときは審判には移行しません。その場合は、訴えを起こすことになります。
●遺留分減殺の方法
遺留分減殺請求の結果発生する返還請求権の対象は、原則として現物返還主義ですが、受遺者・受贈者は、減殺を受ける限度で、贈与または遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還義務を免れることができます(民法1041条)。また、遺留分権利者からも価額弁償の請求をすることも認められています(判例)。
事例にも関連しますが、次回は「寄与分」ということについてお話する予定です。 |