(40) 三里木区 たわらや酒店 宇野功一
秋の味覚に「山廃」の酒
◆山廃(やまはい)について
最近、日本酒のラベルやパッケージに「山廃」とか「山廃仕込」と書いた商品があります。これは一体何でしょうか?うちのお店でも『「山廃」って何ですか?』という質問をしてくる方も多いです。いかにも美味しそうな感じがしますが、「山廃」って何?と尋ねられると、答えに困ってしまいます。
「山廃」は吟醸や本醸や純米のようにお酒のランク(特定名称)を標記するものではないことを先ずご理解ください。「山廃」は正式にいうと「山卸廃止仕込酒母」(やまおろしはいししこみしゅぼ)もしくは「山卸廃止仕込」を略して「山廃」といっているのです。
◆山卸廃止仕込とは?
山卸(作業)とは、精米が水車などでされていた江戸時代、半切り桶の中に蒸米と水を入れ、櫂(かい)ですりつぶす作業のことを言っていました。現在は精米機で精白することができるようになり、麹の酵素が十分に白米に吸収されるので、蒸米をつぶす(山卸作業)必要がなくなり、「櫂(かい)でつぶすな 麹で溶かせ」と言われるようになり、山卸の操作(作業)を廃止するようになりました。
◆ふつうの日本酒とどこが違うか?
「山廃」は生もと(きもと)系酒母を代表するもとで、ふつうの日本酒(速醸系酒母)と比べると、育成日数が長く(山廃26日〜30日、ふつうの酒(速醸)7〜14日)、室温が5℃以下で仕込みます。製造がとても難しいのです。酒母そのものにアミノ酸(旨味成分)が多く、濃厚な味で、製成酒も濃醇酒ができます。
また、枯らし日数(酒母完成から本格的に日本酒を仕込むまでの日数)が長くなっても酒母の力が低下しません。山廃の製造は、仕込水・麹などからくる硝酸還元菌・乳酸菌を低温で増殖させ、その働きを利用して雑菌や野生酵母を淘汰するとともに、酒母に必要な乳酸を生成させます。(ぺーハー3.5程度 強い酸性です)
自然の摂理を巧妙に利用した山廃仕込の技法は、先人たちの知恵と経験の集積です。しかし、残念なことに、製造に手間と時間がかかるため、合理化と省力化の名の下に、山廃を仕込む蔵が少なくなり、杜氏の世界でも山廃の技術が忘れられてきたことは、非常に残念なこととしか言えません。山廃で仕込んだ酒は、香が芳ばしく、濃醇で腰が強く、いくら水で薄めてもちゃんと酒の味がします。高級ウイスキーにも同じことが言えると思うのですが、高級ウイスキーは水割りで水の割合を多くしても、ウイスキーの味がちゃんとするのを、皆様も経験されているのではないでしょうか。
◆山廃の酒もいろいろ
山廃は銘柄やランクを示す用語ではありません。伝統技法によって作られるお酒の製造過程を示しています。特性上、東北・北陸地方でこの技法によって酒が造られます。いろんな蔵元で山廃仕込みの酒があります。また、脂ののったサンマと山廃の酒は相性がバッチリ。お燗をするとさらに旨味が増します。今年の秋は、あなたのお気に入りの山廃を見つけるのも楽しいのではないでしょうか? |