小児科医のつぶやき  吉本寿美

よしもと小児科医院   
菊陽町大字原水 1261
096-233-2520


189号 2003年11月02日

(1)はじめまして?ただいま?

 初めまして。10月1日に、菊陽バイパス沿いに開院した、よしもと小児科医院の吉本寿美といいます。今後ともよろしくお願いします。

 さて、どうしてこういうタイトルにしたかと申しますと、僕自身がこの町の出身で(実家はブドウ園をやってます)、さくら保育園→中部小学校(昔は木造校舎で、牛乳をこぼしたときは、雑巾を持って下の教室に走って行った記憶があります)という経路を歩んできました。残念ながら中学からは市内の学校に行ったため、菊陽から離れてしまいましたが、今回縁あって地元に戻ってきたこともあり、このようなタイトルにしてみました。

 菊陽バイパスが開通し、保育園も小学校も新しくなり僕らが子どもの頃とは風景も一変しましたが、子どもたちの元気な声だけは今も昔も同じのようですね。僕自身のことについてはプロフィールが病院の中に掲示してありますから、興味のある?かたは是非おいで下さい。

 さて、これからは月1回のペースでこちらにいろいろな話題を提供する予定です。我々小児科医は、以前では考えられなかったような核家族化、病院のコンビニ化、子どもの心の問題、インスタント食品を始めとする食事の問題、それに伴う肥満の問題など、多くの問題に直面し頭を痛めております。とても一人で解決できるようなものではありませんので、地域住民の方々と協力しながら一つずつ解決していければと思っております。

 次回より具体的な問題に触れたいと思いますが、まずは予防接種に関係した病気につい考えてみようと思います。いっこうに減少しない「はしか」の問題や、11月から予防接種が始まっているインフルエンザのことなど、身近な問題についてお話したいと思います。この機会にもう一度、子どもたちの病気について皆さんと一緒に考えてみましょう。


194号 2003年12月07日

(2)予防接種について

 さて、皆さんは予防接種というとどのようなイメージを抱かれるでしょうか?痛い、怖い、面倒だ、副作用は?などいろいろだと思います。今、全国の小児科医が懸命に取り組んでいるのが「はしか(麻疹)」撲滅運動です。

 はしかは、発疹、高熱、肺炎などを起こす病気ですが、アメリカ全土での年間患者発生数が100人程度(大半は日本などの海外から持ち込まれた患者です)なのに対し、熊本だけでも年間の患者数は軽く100名を越えると思われます。このことからも、以下に日本での患者発生数が多いのかわかっていただけると思います。

 原因は予防接種率の低さにあります。我々小児科医がどんなに努力しても、やはり最後はご両親の理解と協力が必要なのです。1歳になったら、是非はしかの予防接種をしましょう。
 それと、寒くなってくるとインフルエンザの流行が心配ですよね。最近では検査キットや治療薬も出てきて、すごくいい時代になりました。しかし、やはり今でも変わらないのは予防接種の大切さだと思います。

 予防接種をしたら絶対にかからない訳ではないのですが、重症化を防ぐ意味では大切です。特に小さな子どもさんの場合、インフルエンザ脳炎や脳症になると数時間で命を落とすケースもありますので、面倒とは思っても是非12月中旬までには2回接種を終わっておきたいものです。
 予防接種については、未だに添加物の問題などもありますが、日本ではあまりにも副作用が強調されている感じがします。確かに、副作用は全くないことはないのですが、それがいやで多くの人が予防接種をしなっかたらどうなるでしょうか?その方がもっと恐ろしいのではないでしょうか。

 「子どもに予防接種を受けさせないのは虐待と同じだ」と言った先生もおられるくらい、予防接種というのは子ども達の健やかな成長のためにはとても重要なものなのです。お子さんの将来を左右するのは、言うまでもなくお父さん、お母さん次第なのです。


198号 2004年1月4日

(3)子育て

 仕事柄、子育ての相談をよく受けたり、いろんな患者さんやご両親とお話する機会も多いのですが、以下に挙げるのは実際にあった話です。
 早朝4時頃丸々した、元気そうな赤ちゃんが「よく吐く」ということで来院されました。予想通り、診察してもどこも異常はありませんでした。「ミルクはどのくらい飲まされてますか?」と尋ねたところ、若いお母さんが「えーと、1回300mlくらいを1日3回ですかね」。赤ちゃんも食事は1日3回と思われていたようです。「お母さん、頼むよと」思いながらしっかり説明はしましたが、その後どうだったのでしょうか?

 あと1例これも深夜なのですが、おばあちゃんとお母さんが1ヵ月ほどの赤ちゃんを連れて来られました。診察室に入るなり、おばあちゃんが「先生、ピクピクしてけいれんしているみたいですけど」。とても元気そうで診察しても異常は見つかりませんでした。「モロー反射といって正常な反射だと思います。

 病気じゃありませんので、ご心配なく」すると、おばあちゃん曰く「いや、娘はこうはなかったです」と。おいおい、おばあちゃん昔のこと忘れたんですか?しっかり育児を勉強してとは言いませんが、やはり親となる以上は基本的なことくらいは知ってて欲しいと思うことがあります。ただし夜中寝てくれない、1才なのに歩かない、ミルクを3時間おきにやっても飲んでくれない、など教科書通りにいかないのも子育ての難しいところではあります。

 経験上、大変なのはすごくわかりますが、それをあまりストレスに感じない方がいいかもですよ。以外と自分だけでなく、他の人たちも同じ悩みを持っているものです。同じくらいの子供さんを持っている方とおしゃべりすると「そうそう」とうなずけることも多いですよ。きちっと子育てするのはすばらしいこととは思いますが、たまには肩の力を抜いてみると、お子さんがもっとかわいく思えるかも知れませんね。


201号 2004年2月1日

(4)おもちゃ

 クリスマスやお正月に、お子さんはどんなおもちゃを買ってもらわれたのでしょうか。最近では、コンピューターや電気で動くおもちゃが主流のようで、なかなか大人にはついていけないところがあります。特にTVゲームの世界は凄いですね。慣れた子どもたちは次々に技を駆使し攻略していきます。

ただ、困ったことに相手を傷つけるようなゲームがあったり、ゲームの途中でリセットしてしまう事もあります。このようなことが、簡単に人を傷つけてしまう現代の子どもたちの行動と関係があるのではないかと危惧しています。たかがゲームだからと言ってしまえばそれまでですが、簡単に相手を殺してしまったり、都合が悪くなるとリセットしてしまう。

昔は喧嘩をして、ここまですると痛いからやめようとか体で覚えたものです。しかし、ゲームではそういう感覚を得ることは出来ません。また、日常生活では都合が悪いからといって簡単にリセットしてやり直すことも出来ません(出来たらうれしいのですが)。そのあたりをうまく教えてあげるのも大人の役目なんでしょうね。たまには寒くても外で遊んでみてはどうでしょうか。落ちてるもので遊んだり、いろんなことが肌で感じられると思います。

 おもちゃといえば、最近木のおもちゃがブームのようです。医院のプレイルームでもみんな夢中になって遊んでいます。こんな遊び方をするんだと感心することもしばしばです。帰りたくないと言って、かえって困っておられるお母さんたちもいらっしゃいますが。

ただ、問題なのは日本製が少ないためか、金額が少々高いことでしょうか。しかし、耐久年数も優れ、暖かみも感じられる木のおもちゃは本当にいいものです。もし、興味のあるお母さん方は一度お店に出かけられてはいかがでしょうか。但し、子どもさんが帰らないと泣くのは覚悟の上で…。

<おすすめのお店>
ボーネルンド(鶴屋新館)、えるむの木(手取神社前)、暮らしの森(平成)、panta(幾久富)


206号 2004年3月7日

(5)少子化と小児医療

 日本では急速に少子化が進み高齢化社会に突入しましたが、具体的な政策は一向に見えてきません。予算は組まれているようですが、果たして適切な所に配分されているのでしょうか。小児医療についても同じようなことが起こっているようです。
入院施設を持つ病院小児科には、小児医療うんぬんという名目でお金の配分があるそうですが、一旦病院に振り込まれるため小児科に使われるのは本当に少ない額しかないと聞いたことがあります。小児医療は保険点数も少なく、薬の量も少ないため、悲しいかないつも不採算部門として取り上げられます。
そのため、経営改善と称して小児科を閉鎖する病院も多く、市内でも2月いっぱいでNTT病院が小児科を閉鎖しましたので(理由はわかりませんが)、中心部からはまたひとつ小児科が無くなります。
 こんなことを知ってか知らずか、小児科医を志す若い学生も減少しています。どうしても、「きつい」「大変」「手がかかる」といったイメージがあるのでしょうか、大都市を中心に小児科医減少が深刻な問題となっています。
 また、小児科には女性の医者が多くなってきており、そのためどうしても結婚・出産・育児と仕事の両立という問題でリタイヤされる先生も多く、小児科医確保、小児科女医問題は現在の小児医療の大きな問題です。
 暖かくなって患者が減ってくるといつも思うのですが、大学や関連病院に勤めていた頃は、「冬場は小児科は忙しすぎる」と言われ、夏には「患者を増やせ」と言われてました。無理難題や文句を言われて、多くの小児科医が嫌な思いをしています。更に、診察中だって子どもは泣くし、蹴ってくるし、それはもう手がかかります。

それでも、こうして多くの先生が小児科を続けているのはなぜなんでしょうね。単に子どもが好きだからという簡単な理由だと思います。小児科医は「天使に一番近い職業」っていう国もあるのですが、まだまだ日本では難しいですね。


210号 2004年4月4日

(6)専門医 〜子どもは小児科へ〜

 遺伝子組み換えの安全性についての疑問が拭い去れないまま、遺伝子組み換え作物は食品となり、日本で消費され続けています。アトピーなどのアレルギーに悩む人が増ええたこと、健康食品や栄養補給食品がこれほどまでに売れ、健康に関する情報は毎日のように流されているにもかかわらず、医療費が増え続けていること、高齢化社会だけがその理由ではないような気がします。
  人が健康であるためには地球そのものが健康でなくてはいけない。しかし、今は大切なことを後回しにしたまま、抱えている様々な問題を何とかしようとしている・・・。
 本当にこのままでいいのでしょうか?遺伝子組み換えの問題をはじめ、本当にこの方法でいいのかと疑問に思っていることについて、もう一度「命」に視点を置いて考えてみる事が必要なのではないかと思えてきます。
  人が高度な科学技術を手に入れ、全ての物が便利になり、ついに遺伝子に手を加え始めた・・・。今、明らかに地球は46億年の歴史の中で大きな転換期を迎えているのではないでしょうか。そして、これから地球が、生命がどのような方向に向かっていくのか大事な選択をひとつ私たち「人」一人一人にゆだねられているのです。

     先日の新聞に「有機」表示の豆腐、納豆の3割が遺伝子組み換えであった(遺伝子組み換えの原材料を微量でも使用したら「有機大豆」と表示できない)とありました。農水省は結果がまとまり次第「有機」の表示を削除するよう指導、業者名を発表するということです。今まで隠し通せたことがもう隠せなくなってきているということ・・・。これは一人一人の意識の高まりがもたらしてきているような気がしています。消費者が安全なものを食べたいと言う意識を持ち、その視点で消費、行動していくことこそが大切で、それはこれから更に大きな力になっていくのではと思っています。

214号 2004年5月2日

(7)今流行している病気は?

 暖かくなり、過ごしやすい季節になりました。今年は、幸いインフルエンザの大流行もなく、B型もまったく流行しませんでした。最大の理由は予防接種を多くの方が受けられていたためではないかと思います。菊陽町では、町からの助成があり負担金も少ないのも後押ししてると思います。4町合併後も維持できるよう、現在南部4ヵ町村の小児科医が話し合いを行っており、各自治体に働きかける予定ですので、住民方々も応援をお願いします。
 さて、皆さんは今何の病気が流行しているかと聞かれたら、パッと答えることができるでしょうか?新聞にも1週間に一回は感染症情報が発表されていますので、是非そちらをチェックすることをお勧めします。特に、4月から保育園、幼稚園に子どもさんを預けるようになられたお宅では注意して見て下さいね。
 今のところ、県下では水痘(みずぼうそう)の流行が見られます。予防接種をしていれば、9割の抗体獲得率があると言われていますので、かかってない子どもさんは(時々大人の方もいらっしゃいますが)予防接種を受けられることをお奨めします。外来でも、「水痘なので、保育園は1週間くらいお休みしないとダメみたいですね。」と言うと、「仕事休めないんで困ります!」と言われるお母さん方もいらっしゃいます。そう言われてもこっちも困ってしまいます。
 おたふくかぜと水痘は有料ですが、かかってしまうといろんな合併症も出てきますし、登園・登校停止の措置を取らなくてはいけませんので、後悔する前に予防接種をしましょう。
 また、新聞報道では風疹も流行しはじめているということです。妊婦さんがかかると、先天性風疹症候群という病気の子どもさんが産まれることもあります。大人の方でも(特に結婚を控えられている女性は)風疹にかかっていない、あるいはわからない方は急いで抗体検査をするか予防接種をして下さい。


218号 2004年6月6日

(8)たかがアトピーとはいうものの・・・

 アトピーといえば、アレルギーと同義語のように思われがちですが、本来は同じではありません。アレルギーという言葉は約100年前に初めて論文に登場しましたが、現在では○○アレルギーなどのように拒否的反応として使うことが多いようです。実際はアレルギー反応というと大きく4つに分類され、アレルギー性鼻炎や喘息のようなT型反応や、アトピー性皮膚炎(AD)のようなW型反応(ADはT型ともいわれますが)などがあります。
 ADに関しては、1980年半ば頃から有症率が高くなり、小児科領域と皮膚科領域でADに関して論争になった時代がありました。その理由としては、小児科医が診るADは乳幼児(食物に感作されている率が高い)が多く、皮膚科医の診るADはAD単独の年長児が多かったという違いによるためではないかと思われます。そのため、小児科医は主に血液中のTgE抗体というものを測定し、これを根拠に食物の関与を考えるようになりました。一方、皮膚科医はADは湿疹という炎症反応であるという考え方が中心だったため、なかなか両者の溝は埋まらなかったようです。
 最近でこそガイドラインが出来て、やっと見解の一致がみられるようになりましたが、医療現場がこのような状況だったためADについては多くの民間療法が存在するのも事実です。民間療法全てを否定する気はないですが、中には?と思ってしまうものもあります。また、ADで深刻に悩まれている方の気持ちにつけ込んだビジネス(時に医者も加担する)も存在するようです。
 ADについて確かなことは、皮膚のバリア機能が破綻してるので、スキンケア(特に保湿と清潔)が重要ということです。場合によってはステロイド外用剤が必要なケースもあります。風邪などと違い、数日で完治する病気ではないので、何でも相談できる先生を見つけて正確な診断をしてもらって、根気よく治療を続けることが大事です。


222号 2004年7月4日

(9)自然とふれあおう

 最近は、外で元気よく遊んでいる子どもたちが少なくなったように思います。少子化の影響もあると思いますが、子どもが被害を受ける痛ましい事件があまりにも多くなったため、外で遊んでおいでとは簡単に言えなくなったのも関係しているのでしょうか。僕らが小さい頃は考えられなかったことですが、残念な事です。
 病気に関しても、最近はこころの病を持つ子どもが増えてきました。 いやいや、子どもだけではなく、大人も(自分も含めて)どこか疲れ果てているように感じます。ストレスが多い社会になってしまいましたので仕方ないとは思うのですが、自然とふれあう機会が少なくなってきたのも原因なのかもしれません。
  時々お邪魔するのですが、阿蘇に葉祥明阿蘇高原絵本美術館というところがあります。既にご存じの方も多いかと思いますが、熊本出身の葉祥明さんの絵本や原画などの展示がされている美術館です。葉祥明さんには、縁あって昨年開院前に当院で講演会をしていただきました。その後も、葉祥明さんの実弟で美術館の理事長である葉山祥鼎氏とは仲良くさせてもらっており、お邪魔した際にいろいろ話をするのですが、先日伺った際にも最近の子どもは絵が描けないと嘆いておられました。特に都会に住んでいる子どもたちにはその傾向が強いということでした。
  考えてみると、コンクリートに囲まれ、テレビゲームしかやらない子どもたちが、いきなり何もない草原で絵を描くのは難しいことかもしれません。美術館には目の前に広い草原と散歩道があり、子どもたちは思い切り走り回ることが出来ます。道具はなくても子どもたちはいろんな事をして遊んでいます。週末予定がない方は、一度家族で遊びに行かれてみてはどうですか?大自然の中で、家では見ることの出来ない子どもたちの笑顔に出会えると思いますよ。もちろん、大人も癒される不思議な所です。

葉祥明阿蘇高原絵本美術館
熊本県阿蘇郡長陽村大字河陽字池ノ原5988-20
TEL/FAX:09676-7-2719  http://www.yohshomei.com/museum_aso.html


226号 2004年8月1日

(10)ワクチンと水銀の問題

 予防接種が子どもたちの健康を守る上で重要な役目を果たしていることは周知の事実です。しかし、種類が多く、どのくらい間隔を空けたらいいか、わかりにくい点もあり、1歳半健診の時点でもまだ接種をしてないお子さんも結構いらっしゃいます。そういう理由とは別に「水銀が入ってるからしたくありません」と言われる方もたまにいらっしゃいます。テレビの報道を見られたためと思うのですが、やや偏った報道であったとも聞いています。特に、熊本は水俣病の発生した場所でもあるため、過敏になられるのは仕方ないことなのかもしれません。
  水俣病の原因はメチル水銀という有機水銀ですが、不活化ワクチンには防腐剤としてエチル水銀(メチル水銀ではありません!)であるチメロサールが含まれています。もともと、ワクチンの汚染事故がきっかけで防腐剤が加えられるようになりましたが、最近ではその含有量はかなり少なくなっています。しかし、メチル水銀の障害がチメロサールの毒性と混同されて、自閉症の発症に水銀が関係していて、予防接種により自閉症になるという仮説が生じるようになりました。結局、因果関係はないということが、今年5月に明らかになっています。

 最近ではチメロサールを含まないワクチンもありますので(但し、それにもチメロサールの代替物が含まれていますが)どうしても心配ということであればそちらを選択されてもいいでしょう。
 現在はインターネットの普及により、多くの情報が簡単に入手出来るようになりました。ワクチンと水銀の問題も、正確な情報と知識を得た上で、よりよい判断をされてください。わからないことや不安な事は、まずはかかりつけの先生に相談してみましょう。


230号 2004年9月5日

(11)イオン飲料について

 それにしても、今年は暑いですね。こんなに暑いのは熊本でも珍しいのではないでしょうか。いろんなニュース番組で熱中症のことが報道されており、予防には充分な休息と水分補給が重要ですが、果たしてどんなものを飲めばいいのでしょうか。
 最近では、ペットボトルの普及と共にイオン飲料を数多くみるかけようになりました。手軽で飲ませ易いこともあり、発熱、下痢、嘔吐などで来院されたお母さん方には、脱水にならないようにイオン飲料などを飲ませて下さいと説明します。但し、症状が改善したら止めて下さいとまでは説明が出来てないのが現状です。
 イオン飲料を飲み続けた場合何がいけないかというと、飲み過ぎると電解質が多いためかえってのどが渇いてしまいます。その結果、ずっとイオン飲料を飲み続ける状態になり、肥満の原因になることがあります。また、最悪の場合には耐糖能の異常を来し、いわゆる「ペットボトル症候群」という糖尿病の状態になってしまうこともあります。突然倒れて救急車で搬送され、よく話を聞いてみるとペットボトルばかり飲んでいて、検査すると高血糖になっていたということも最近では珍しくありません。
 もう一つは、イオン飲料が口腔内に残ると虫歯の原因になることがあります。虫歯になりやすいpHは5.4以下ですが、イオン飲料のpHは4.0前後ですので歯のエナメル質の脱灰が起きやすくなります。これだけが虫歯の原因ではないのですが、最近では「だらだら飲み」を避けて下さい、という注意書きを表示したイオン飲料も見られます。
 病気の時、あるいは汗をかいた後などは水分接種は重要なのですが、元気なお子さんには出来るだけイオン飲料ではなく、普通の水を与えるように心がけて下さい。やむを得ずイオン飲料を飲ませる場合でも、日頃から適量を飲ませる、あるいは飲ませ続けないなどの注意が必要です。


234号 2004年10月3日

(12)子どもの事故について

 この10月で当院も開院1周年を迎えます。その間、病気の方はもちろんですが、事故の患者さんも多く来院されました。なかでも、誤飲や打撲などのお子さんが多く受診されました。
まず最も多かったタバコ誤飲の場合ですが、いつ、どのような性状(葉か吸い殻か、浸出液か)のものをどの程度食べたか確認しなくてはいけませんが、ほとんどは親の見ていないところでの出来事ですからわからないことが多いようです。

 以前は不必要な胃洗浄をやっていましたが、現在はほとんど行いません。もともと美味しいものではないので、そう食べられるものではありません。2センチ以上食べたとか浸出液を飲んだ場合には胃洗浄も必要となってきますが、基本的には手を使って吐かせる以外の処置は不要です。その他では、ボタン電池、おもちゃ、灯油など誤飲したケースもありますが、処置がいろいろ違いますので、まずは受診されて下さい。

 また、以前経験した例では、呼吸停止で運ばれてきた子どもが実は10円玉をのどに詰まらせて窒息していたというようなこともありました。 また、転落事故の赤ちゃんもよく受診されます。「キャリーバッグ」から落ちたとか、ベッドから落ちたとかが多いようです。大丈夫なことがほとんどですが、うっかりでは済まされない事態になることもありますから、十分注意が必要です。

 その他には、夏場に多いと思われがちな溺水は以外と寒くなってからも多く、開業前には自宅の風呂場での溺水を時々経験しました。お湯を残したままにしておいたら、ふたの上で遊んでいて子どもが落ちていたというケースはよくあります。小さい子どもさんがいらっしゃるところは、風呂のお湯は残さないようにして下さい。

 病気は仕方のないことですが、事故は結局は親の不注意で起こるものです。子どもは大人が思いもつかないことをしますので、小さなお子さんのいらっしゃるご家庭は安全な環境作りに気を配られるようお願いします。


239号 2004年11月7日

(13)感染症迅速診断キットについて

 最近の感染症迅速診断キットの進歩には、目を見張るものがあります。現在臨床応用が可能なキットは100種類以上あると言われています。また、問題となっているSARSウイルスも迅速診断が可能になってきているようです。小児科関連でよく使用するものとしては、溶連菌、インフルエンザ、アデノウイルス、ロタウイルス、RSウイルス、マイコプラズマなどの診断キットがあります。

 測定原理は幾つか方法があり、やや専門的になってしまいますのでここでは省略しますが、小児科外来で利用するキットはほとんどが15分以内に判定が可能で、しかも操作も簡単なことから急速に普及してきました。近頃は一般の患者さんのほうが詳しくて、「・・の検査をして下さい」と言われることもしばしばです。ただ、検体採取においては咽頭や鼻腔から行うため、どうしても小児の場合は検体が十分に取れない場合もあり、本来は陽性なのに検査では陰性に出てしまうこともあるため、検査結果だけでは間違ってしまう可能性もあります。
 しかし、このような検査キットのお陰で以前より正確な診断と治療が行えるようになったのは喜ばしいことです。インフルエンザ感染は、普通のかぜとの区別は診察だけでは難しいのですが、検査キットで感染がわかると通常は抗生剤は不要で抗ウイルス剤のみの治療で十分です。溶連菌感染症では、しばらく抗生剤を飲み、何度か尿検査も必要になってきます。RSウイルス感染は重症化することもあるため、細心の注意を払わなくてはいけません。

 ロタウイルス感染ではなかなか下痢が止まりません。このように、検査結果からある程度病状を予測したり、不必要な抗生剤の投与を避けることも可能になり、その結果最近問題になっている耐性菌の出現を防ぐことにもつながります。
 そろそろインフルエンザの季節になりました。検査キットのお世話にならないためにも、出来るだけ早めのワクチン接種を行いましょう。


247号 2005年1月3日

(14)抗生物質について

 今年も宜しくお願いします。
 さて朝夕寒くなってくると、どうしても子どもたちはかぜをひいてしまいます。咳、鼻水だけならあまり心配はないのですが、中には高熱を出して受診されるお子さんたちも多くなります。熱を出す原因はいろいろありますが、小児の場合最初は何が原因なのかわからないこともよくあります。

 例えば突発性発疹という病気は、HHV-6(または7)というウイルスの感染による疾患で、解熱後に発疹が出てきて突発性発疹でしたねとなるので、最初から確定診断することはなかなか難しい病気です。この場合抗生物質が必要かどうかなのですが、一般的にはウイルス感染症ですからほとんど効果はありません。

 しかし、私も含めてどうしても最初は他の病気も考えて抗生物質を処方することが多いようです。溶連菌感染症のように絶対抗生物質が必要な病気もあるので、この場合は熱が下がっても内服を続ける必要がありますが、同様に他の発熱した疾患にも「まずは抗生剤を・・」という治療が日本では主流です。
 それではいわゆる「かぜ」の場合は抗生物質を飲んだら早く良くなるのでしょうか?抗生物質は細菌を殺したり、増殖を抑えるもので細菌感染の場合には非常に重要な薬です。しかし、一般に「かぜ」といわれる場合にはウイルス感染症の場合が多く、必ずしも抗生物質が有効とは限りません(この判断が非常に難しいのです)。小児で問題になっている肺炎球菌については、日本では抗生物質に対する耐性化が進んでるのですが、デンマークでは耐性菌の割合は5%以下という報告もあります。
 抗生物質を出さない診療は説明に時間も必要で忙しい外来では難しいのですが、出来るだけそのような医療が出来るよう努力していかなくてはいけないと考えています。「念のために抗生物質を」という医療は簡単なのですが、抗生物質の投与については耐性菌から子どもたちを守るためにも医師と国民が一緒になって考えていかなくてはならない問題だと思います。


251号 2005年2月6日

(15)小児白血病 〜治癒する病気〜

 開業以来、お付き合いしていただきましたが、今回を含めてあと2回で私の連載も終了することになりましたので、今回は開業するまで携わっていました小児の白血病についてお話ししたいと思います。
  白血病と聞くと皆さんはどう思われるでしょうか。「かわいそう」とか「死んでしまうんだ」と思われる方も多いと思われます。確かに亡くなることもある怖い病気です。特に成人の場合は(タイプにもよりますが)予後が厳しい症例も多いのですが、小児の場合はかなりの割合で治癒する病気になりました。

 でも、医者になりたての頃は白血病は厳しいなという印象があり、再発したり死亡する子どもたちも、たくさん診てきました。今のように骨髄移植などの先端医療がどこでも出来るわけではなかったので、近年の診断、治療の進歩はすばらしいものがあります。
  特にリンパ性白血病であれば7〜8割が抗ガン剤を用いた治療のみで治癒するようになりました。治療終了後も経過を見る必要がありますが、再発さえしなければ普通に生活が可能で、結婚や出産についても問題にならない場合がほとんどです。
 ところで、世界中の研究者がいろいろな角度から調査、研究を重ねていますが、なぜ小児白血病は成人に比べて治癒率がいいのか、今もはっきりした結論は出てないようです。専門的なことを言えばいろいろな理論があるかとは思うのですが、実は「これからも頑張って生きなさい」という、子どもにだけ与えられた生命力なのかもしれません。

 熊本県下でも、年間10数名の新しい白血病患者が発症しています。きっと皆さんの周りにも、白血病になられたお子さんがいらっしゃるかも知れませんが、たまたま病気になっただけで、治癒すれば何も心配はありませんので、普通のお子さんと同じように接していただければと思います。開業後は急性期の白血病のお子さんの診察は出来なくなりましたが、今後も何らかの関わりを持ち続けたいと考えています。


255号 2005年3月6日

(16)これからの小児医療

 今回で、私の連載も終了することになりましたので、最後に小児医療について思いついたことを述べてみます。
 日本の小児医療はさまざまな問題を抱えていますが、まず大きな問題は何といっても年々悪化する少子化です。その影響か、小児科医師の不足が都心部でも問題になってきており、小児科標榜の病院が少なくなっています。

 夜間救急についても、熊本は受診できるシステムが出来ていますので今のところは安心ですが、小児科開業医も高齢化が進んでおり、いつまで今のシステムが成り立つかわかりません。また、小児科は女性医師の割合がますます多くなってますが、これもいろんな問題を含んでいます。

 結婚、出産との両立が難しく(産休はまず無理)、仕事を辞められる先生も多く、これが医師確保を難しくしているのも事実です。まだまだ明るい未来というわけにはいかないようです。

 予防接種に関しては、BCG接種が直接接種になり生後6ヶ月までの接種になりました。また、麻疹と風疹の予防接種が2回接種に変わる予定です。その他にも幾つかワクチンの治験が進んでおり、新たな予防接種が加わることも予想されます。それから、県では予防接種の広域化の問題が検討中です。

 例えば、阿蘇の子どもさんが熊本市で接種するためにはいろんな手続きや費用がかかるのですが、それを県内どこでも無料で接種出来るようにしようという試みです。既に一部の県では始まってますので、何とか熊本でも実現して欲しいのですが、各自治体の予算の関係などでなかなかうまくいってないと聞いています。

 もう少し、小児医療に理解を示して実現して欲しいと思うのですが、無理なのでしょうか。健診についても熊本市と同様に何とか集団でなく個別でとお願いしてますが、実現にはまだ時間がかかるようです。
 小児医療はこれ以外にもまだまだ多くの問題が残っていますが、少しずつ解決のために頑張っていきたいと思っています。短い間でしたがありがとうございました。

 
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