上津久礼区  古川医院  古川まこと

菊陽町津久礼868−5    рO96−232−1566
診察時間(月〜金) 9:00〜18:00(昼休み12:30〜14:00)
  土曜日 9:00〜13:00        休診:日曜祝日
内科・外科・耳鼻咽喉科・小児科
http://www.dr-mako.net/


158号 2003年3月16日

(1)病気を作る社会のしくみ

 日本人の平均寿命は81.4歳、障害や寝たきりの期間を差し引いた健康寿命は73.6歳、いずれも世界一との事です。平均寿命とは、生まれてから何歳まで生きられるかを計算したもので、時代と共に変化していきます。
 しかし、近未来の日本では寿命はどうなるかわかりません。現在、生活環境の悪化や食事の変化により癌や糖尿病等多くの病気が急増しています。例えば、1,300万人の糖尿病患者。そして1年に30万人の方が癌で亡くなられているのです。いかに医学医療が発達し多くの大小の医療機関が増えても病気は減るどころか、増えているのです。

 

◆ これはどうでしょうか
 病気には風邪、インフルエンザなどの感染症、癌をはじめとして糖尿病などの生活習慣病だけでなく多くのこころの病もあります。この不景気下の厳しい生活環境の中でのさまざまなストレスも多くの病気を引き起こしています。自殺者3万人がこのことを物語っています。
 これは、現代社会が病気を生み出す仕組みになっているからです。病気治しが医者の役目であるならば、病気を作り出さないようにすることも重要な医者の仕事だと思います。
 この悪い社会の仕組みを変えていくことも、ひいては病気をなくしていくことにもつながります。
 次回からは病気を作り出す社会の仕組みについて述べてみたいと思います。


 病気の早期発見・早期治療(二次予防)はさかんに行われていますが、病気を減らす事ができていません。病気を減らす一番の方法は、病気にならないこと、すなわち生活習慣と食べ物に気をつける一時予防が大切です。この一時予防についても述べてみたいと思います。
 一時予防を実践し健康寿命を延ばし、世の中との係わり合いの中でいつまでも生きがいを持ち続けることをお勧めします。そしてせっかくの人生です、この一回きりの人生を大いに楽しみましょう。


163号 2003年4月20日

(2)体に有毒なタバコをやめましょう!

 多くの人はたばこが体に悪いと知っています。しかし、どれくらい悪いのかについては知らされていません。たばこの毒についての情報公開がまったくなされていないからです。これは、商品としてのたばこを販売する企業の戦略であり、その企業を保護する政府の方針なのです。日本の政治家、官僚は国民一人一人の命より大企業の経営を重視しているのです。
 たばこの煙には、4,000種類の化学物質が含まれ、そのうち200種類が有毒物質(60種類は発癌物質)です。その中でニコチン、タール、一酸化炭素が3大有害物質です。一服するたびに軽い一酸化炭素中毒になり、全身に酸素不足を起こします。ニコチンにより麻薬と同じように依存症になり、たばこをやめるのが極めて難しくなります。
 また、タールと同じような多くの発癌物質が体の中に取り込まれ、喉頭癌、肺癌など多くの癌を発症させます。1本のたばこの煙は部屋の中に広がり、吸わない人も同じようにこれらの有害物質を体に取り込みます。
 このように、たばこにより肺癌をはじめさまざまな癌や多くの病気を引き起こします。肺の組織が破壊される肺気腫などの慢性呼吸器病患者は1,000万人と推計され、年間1万人亡くなります。肺癌で年間35,000人が亡くなります。たばこが原因で癌や心臓病、脳卒中になどになって亡くなる人は年に105,000人、その中で癌は約56,000人です。喫煙は「ゆるやかな自殺」なのです。そして周りの人たちはその「自殺」に知らず知らずのうちにつき合わされているのです。


 たばこをやめることもまた病気ならないための重要な第一歩です。自らの健康と周りの人々の健康を考え、禁煙を試みてください。

††† たばこをやめたい方へ †††
 ニコチン依存症のため、たばこをやめることはなかなか難しいようです。しかし、さまざまな禁煙方法があります。諦めずに、何度でも挑戦してください。また、当院にもご相談ください。
 古川医院  рO96−232−1566


166号 2003年5月18日

(3)たばこから子どもたちを守りましょう!

 問題なのは、未成年の喫煙者が年々増加していることです。
 日本は成人男性の50%がたばこを吸っているたばこ天国です。子どもたちは自動販売機で簡単にたばこを手に入れることができます。そして親や学校の先生もたばこを吸っています。
 未成年の喫煙を取り締まるべき警察関係者、禁煙運動の世論をリードするべきはずのメディア関係者にヘビースモーカーが多いと聞きます。回りの多くの大人たちがたばこを吸っているので、子どもたちも容易にたばこを吸い始める生活環境となっているのです。

 10代の頃からたばこを吸い始めると、吸わない人に比べ肺癌の死亡率が6倍にもなります。そして癌や心臓病で早死にする人が非常に多くなります。14歳以下で吸い始める者の多くは60歳まで生きられません。子どもたちがたばこで早死にしないよう、子どもたちからたばこを遠ざける対策が必要です。
 アメリカのようにたばこの箱に「警告:喫煙は肺癌、心臓病、肺気腫の原因であり、また妊娠を困難にする」の表示をしなければなりません。未成年の喫煙は法律で禁じられているのです。子どもたちが簡単にたばこを買い求めることができる自動販売機の撤去を行わなければなりません。子どもたちにたばこを販売してはいけません。小学校1年生から高校生まで舞い学年にたばこがいかに有毒であり、健康被害をもたらすかについて徹底した禁煙教育を行うのです。

 さらに心配な事は、薬物中毒の問題です。たばこを吸い始めるきっかけで一番多いのが「なんとなく興味があって」です。(54.2%)次は「友人にすすめられて」です。(25%)
 同じようなきっかけで覚せい剤やシンナーに手を出すのです。たばこと同じ感覚でそれらの薬物を始め、後戻りができない薬物中毒となり悲しい人生を歩む若者が増えています。

 子どもたちは明日の日本を作ります。私たちの未来でもあるのです。私たちが高齢者になったときは大変お世話になります。子どもたちの命と健康を守るためにも、子どもたちにたばこを吸わせないようにしなければなりません。そのためにも、まず大人が率先してたばこを吸わないようにしましょう。たばこの無い健康な長寿社会を目指しましょう!

169号 2003年6月8日

(4)テレビ・ビデオが子どもの心を壊している!

 テレビ時代が始まった頃、アル評論化が「テレビで一億総白痴」と言いました。
 現在、IT機器の発達でますますテレビ・ビデオが国民の全家庭に入り込み、幼児から大人まで全国民に多大な影響を与えています。

 小学生の年間の授業料が1,000時間前後ですが、もし子どもたちが1日3時間テレビを見るとすると学校の授業より長くテレビの前に座ることになります。視聴率を上げるために刺激的で挑発的、時には暴力的で攻撃的な内容の番組を次から次へと流し続けるため、子どもたちはなかなかやめることができません。そして低俗な娯楽番組ばかり見ていると、精神的に大きく影響を受けます。大人がスイッチを切らない限り長時間テレビに釘付けの状態になります。
 テレビに時間とこころを奪われ、子どもたちは家庭での勉強にも身が入らず、生活習慣が乱れ家族との対話がなくなります。
 テレビ用に作られたアイドルや薄っぺらなタレントに長く付き合っているうちに、彼らの意見には賛同しても、親の顔も見ず家族で話もしない子どもたちになってしまいます。
 果たして適切な家庭教育ができるのでしょうか。

 川崎医科大学小児科片岡教授が述べています。「テレビ・ビデオは一方通行の情報だけを流すだけで、見る人の働きかけには一切反応しない。したがって、乳幼児からテレビ・ビデオを浴びるように見ている子どもたちは、会話も無く感情のやり取りもできない。すなわち、テレビ・ビデオは子どものコミュニケーション能力の発達を奪っている。テレビは乳幼児期の言葉遅れだけでなく学齢期の自閉症、ADHD(多動障害)、LD(学習障害)思春期・青年期の“キレル”性格、ひきこもりなど、成長過程にさまざまな問題を引き起こす可能性さえある。」

 テレビが普及して40年、ビデオが普及して20年。自閉症児と診断される子どもたちはこの40年で25倍に増えています。さらに急速に発達するIT機器はコンピューター、テレビ、ゲームをどんどん進化させていきます。これらのメディアに時間も心も奪わ れていく子どもたちの危機は深刻です。
 人々に娯楽と楽しみを提供してきたテレビは、使い方次第では子どもたちの「時間と心」を奪う装置にもなるのです。子どもたちの未来を考え、更なる人間的成長を願うなら、テレビ・ビデオは控えさせるべきです。そしてできるだけ子どもたちとふれあい、遊び、話し合う時間を多くつくりましょう。

 あなたの大切な子どものために。


175号 2003年7月20日

(5)テレビを控えて本を読みましょう

 人間は、乳幼児期のわずか3年で言葉を覚えます。赤ちゃんと親が互いにコミュニケーションをとり続けていくうちに、初めて言葉のコミュニケーションが可能になります。

 生まれた後、大脳辺縁系(情緒・感情の脳)旺盛に発達し、より複雑な感情表現ができるようになります。そしてほぼ3歳までの間に大人と同等のレベルにまで発達します。言葉の習得、基礎的なコミュニケーション能力の発達はそれらを担当する脳の部分が発達充実するときに行われます。この時期にテレビやビデオに子守をされてしまった子どもたちは、深刻な発達遅滞を起こす可能性もあります。アメリカの小児科学会は「2歳未満の乳幼児のテレビ・ビデオ視聴は禁止すべきだと警告しています。

 6歳過ぎから、理性・知性の脳である大脳新皮質が発達していきます。ところがテレビによりその成長が止められ、正常な発達ができなくなってしまうことがあります。
 幼児期・学童期に子どもたちは友達と元気に外遊びをしながら成長していきます。外遊びを十分満喫し、家では本を読む習慣を身につけさせましょう。
 幸い菊陽町に今秋図書館がオープンします。乳幼児健診で赤ちゃんに無償で絵本を贈るという読書推進運動「ブックスタート」が始まります。赤ちゃんに読み聞かせをおこない、親子のふれあいを深め、同時に乳幼児より本に慣れ親しむチャンスをつくるのです。追跡調査では、ブックスタート育ちは本が好きで集中力があり、読解力も高く、数学の能力にも優れた結果が出ています。

 先進国中、日本の中高生は最も本を読まないそうです。学校で教えられることは、人生のごく一部です。世の中には実にさまざまな考えや人生やいき方があります。それを読書によって学ぶのです。読書離れは国民全体にも広がっています。

 自らの意思をきちんと持つ市民として、読書は必要です。過剰な情報に溺れず、そこから本質を選ぶのです。国民が方向感覚を見失うと、国家を滅ぼすことにもなりかねません。
 テレビを控え家族みんなで本を読みましょう。もっと心が触れ合い、話し合いの場が広がります。


175号 2003年7月20日

(6)携帯電話からの電磁波は安全か?

 私たちは癌や難しい病気について人事のように思っています。しかし、ひとたび病気になると驚き慌てふためきます。病気にならないようあなた自身がいつも気をつけなければなりません。

 今、携帯電話が生活の必需品となっています。特に若者は日常的にコミュニケーションの手段として長時間利用しています。しかしこの便利な携帯電話から出る、目に見えない電磁波が安全であるという保障がどこにも無いことはご存知でしょうか。 1993年アメリカである癌患者が携帯電話産業を相手取って裁判を起こしました。業界は学者に「携帯電話は安全である」ことを確認するための研究調査を依頼しました。ところがその結果は、携帯電話の発する電磁波に、脳腫瘍や癌を引き起こしたり、人体に悪影響を及ぼす可能性があることがわかりました。
 携帯電話から電子レンジと同じマイクロ波が発生し、長期間使用することにより、遺伝子損傷や脳腫瘍を引き起こす可能性が疑われています。実際米国では、ヒトの血球に携帯電話のマイクロ波を24時間照射する実験で染色体の損傷を確認しています。

 またスウェーデンでは脳腫瘍患者198人のうち常時携帯電話を使っている側に腫瘍ができる確立は2.4倍だったそうです。したがって、英国政府や仏国政府は16歳未満の子どもに携帯電話使用を制限し、成人にもイヤホンマイクの使用を勧め、妊産婦は携帯電話を腹部に近づけないことを勧告しています。

また、日本中に建設されている携帯電話のアンテナ(基地局)からの電磁は汚染も問題です。このアンテナが建ってから頭痛・睡眠障害・記憶障害などさまざまな症状が出ることがあります。スウェーデンでは電磁は過敏症の診断を受ける患者さんが増えていますが、日本では未だ医療関係者でもこの病気について理解されていません。
 日本では、消費者は危険性について十分知らされないまま携帯電話を使用しています。あなたの命はあなた自身が守らねばなりません。携帯電話は緊急用と割り切りできるだけ短時間(できれば1分以内)できるように心がけ、長引く場合はイヤホンマイクを使うようにしましょう。

 このように日本では、消費者は携帯電話や家庭電化製品の電磁は汚染の危険性について十分知らされないまま使用しています。5年、10年後に脳腫瘍などの病気が大発生する可能性も否定できません。現実にアメリカで今日のような電磁波汚染が無かったことと比べて脳腫瘍が3倍増えているという報告もあります。


178号 2003年8月10日

(7)砂糖が体に悪い本当の理由

 砂糖は食べ物によく使われていますが、体にはよくないのはご存知でしょうか。砂糖は虫歯の原因になるだけではなく、体全体によくないのです。
 以前は次のように説明されていました。

 砂糖に夜からだの専制化を防ぐために、アルカリ性のカルシウムが中和に使われる。すなわち、砂糖を大量に摂るとカルシウムがどんどん体から消耗していくので、カルシウム欠乏によるさまざまな病気が起こる。
 現在では「砂糖の毒性」についての報告が多数あります。

   ○砂糖の華燭は体内の活性酸素の過剰をもたらすため、アトピー、廊下、発癌や免疫機能の低下をもたらす。

   ○砂糖により動脈硬化や血行障害が起こり、肩こりや冷え性になる。又脳梗塞や心筋梗塞が起こりやすくなる。

   ○砂糖(ブドウ糖+加糖)は血中への吸収が早く、血糖値が急上昇する。それに反応してインスリンが多量に分泌され、血糖値が急に下がり、低血糖になる。
     低血糖になると、アドレナリン(怒りのホルモン)が出て、神経過敏、イライラ、疲労、不安感、無気力、欝を引き起こします。多くの若者や大人がイライラし、
     すぐキレやすいのも砂糖の取りすぎが原因のひとつかもしれない。

   ○砂糖を多く摂ると、高血糖、低血糖を頻繁に繰り返すため、インスリン分泌が起こりにくくなり糖尿病になりやすい。

 砂糖業界は砂糖の有用性についての情報をメディアに流します。しかしあなたは、あなた自身の健康のために、砂糖、特に白砂糖の有害性を覚えておいてください。そして、できるだけ甘いものを控えましょう。

183号 2003年9月21日

(8)環境ホルモン

 現代、私たちは無数の化学物質のおかげで、豊かで便利な生活を過ごしています。
 1994年までに登録されている化学物質は1,300万種類で、このうち現在生産・流通しているのは約10万種類です。さらに毎年1,000〜2,000種類の化学物質が開発されています。しかし、すでに40年前より化学物質の毒性が指摘されています。

 1962年レイチェル・カーソンが「沈黙の春」で、残留性の高い化学物質の汚染の危険性を警告し、特にその発癌性を指摘しています。そのため、先進国ではDDT等の農薬は生産中止となっています。1997年秋に出版されたシーア・コルボーンの「奪われし未来」ではホルモンをかく乱する新たな化学物質(環境ホルモン)の毒性が描かれ、人類に警鐘を与えています。環境ホルモンについてまだ不明の点が多いようですが、人体への影響が明らかです。
 成人男性の精子数の減少が確実におこっています。発癌性のあるダイオキシンは子宮内膜症をも引き起こすともいわれています。アメリカや日本で増加傾向の乳癌は、女性の死亡原因のトップですが、環境ホルモンとの関連が強く疑われています。

 現在、環境ホルモンは70〜150種類ですが、日常生活で頻繁に利用されているものにも含まれているので要注意です。環境ホルモンを含む合成洗剤、染料、化粧品が多く販売されています。ごみ焼却場からはダイオキシンが排出されています。
 除草剤、殺虫剤等に含まれる環境ホルモンは食べ物をとおして体にとりこまれます。都市周辺の河川や港湾の水質や底質から検出される環境ホルモンは飲料水から体にとりこまれ、健康への影響も危惧されています。また日本は全国的にダイオキシンに汚染されています。日本女性の母乳中のダイオキシン濃度が世界で最高値であるのはその一端にすぎません。

 環境ホルモン問題は、地球温暖化や地球環境破壊と同じく、現代生活の便利さと引替えに生じた環境破壊、健康破壊です。このままでは21世紀は人類最後の世紀になるかもしれません。私たちは一人ひとりの意識改革を行い、日常生活の見直しが必要だと思います。あなたはこの問題についてどう考えますか?

187号 2003年10月19日

(9)ギャンブル依存症 〜病的賭博〜

 アルコール、タバコ、ギャンブル等の依存症の患者さんが多いようです。例えば、50%の男性と女性や未成年も含めて全国で3千万人近くがタバコを吸っています。禁煙したくてもなかなか実行できないのはニコチン依存症となっているからです。しかし、大多数が病気だと気付かないので、有害なタバコにより病気になるまで吸い続けます。
 通称「ギャンブル依存症」も病気です。どうしてもやめられず、仕事や財産や家族を犠牲にしてでもギャンブルを繰り返し、破滅的人生にいたります。勝ったときの快感が忘れられず、どれだけ負け続けても深みにはまっていきます。ギャンブルに必要な金を手に入れるために仕事、家族、友人に様々な「嘘」をつき金を手に入れます。サラ金、闇金融から金を借り、本人も家族も地獄の底までつき落とされてしまう事例もよく耳にします。

 容易に換金できるパチンコもギャンブルの一つと言えるかもしれません。昨年の全国のパチンコ産業の売り上げは29兆2250億円です。国民が払う医療費とそうかわりません。
 このように莫大なお金を国民が無駄遣いしているにもかかわらず、どこからも批判がでないのはなぜでしょう。警視庁・警察庁の高級官僚が全国のパチンコ店の加盟する全国遊技業協同組合に天下りしているという報道を見たとき、関係があるのではとつい考えたくなります。
 全国には2,500万人以上の老若男女のパチンコのファンがいますが、中には、パチンコに熱中するあまり、車に残してきたこどもの事をすっかり忘れ、熱中症で死なせてしまう母親もいるのです。

 依存症は病気ですから治療が必要です。しかし、大多数の方は病気であることを自覚していないのでやっかいです。個々人がまず依存症であることを認め、次に専門の病院で治療を受け回復の努力を始めなければなりません。そしてまた、地域の人々の生活環境を悪くするギャンブルを廃止あるいは縮小するよう対策も必要です。政治家、行政関係者そして地域の人々のご協力をお願いしたいものです。

192号 2003年11月23日

(10)重症急性呼吸器症候群 〜SARSに備えて〜

 今年3月から中国、香港、東アジアで猛威を振るってきた『SARS』の6月までの患者は8,000人、そのうち死亡が約800人です(実際は中国広東省で2002年11月患者発症)。幸運にも日本ではSARS疑い52人、可能性例16人、しかもSARSコロナウイルス陽性はいなく、死亡例もなく全員軽快退院しています。
 しかし、冬季に再流行すればインフルエンザとの症状と区別が難しく、感染予防対策が難しくなると思われます。すなわち、昨年度のインフルエンザ患者は全国では1,485万人、重症で入院は124万人、死亡患者が1,100人という過去第3位の大流行でした。今年も昨年と同様の規模でインフルエンザが流行すると、同じような臨床症状のためSARSと区別ができない患者が数万人にのぼり、医療機関での混乱が予測されます。

 SARSは1メートル以内での呼吸器の飛沫、分泌液との接触によって感染します(空気感染も否定できない)。潜伏期は2〜10日(平均5日)。症状は発熱(38度以上)、咳、息切れ、頭痛、下痢、筋肉のこわばり、全身倦怠、下痢です。致死率は 平均およそ15%です(しかし、高齢者、基礎疾患をもつ人は致死率が高い)。
 病原体のSARSコロナウイルスの感染力はそう強くなく、次亜塩素酸ナトリウム(さらし粉/漂白剤)、アルコール(70%)、ポピドンヨード(イソジン)等が有効です。

 今年の冬はSARSに備える対策が必要かもしれません。予防法は風邪やインフルエンザの予防と同じように、感染症予防の基本である「マスク(微粒子用防護マスクN95等)の着用」「うがい、手洗い」「人ごみを避ける」などです。インフルエンザワクチン接種も検討されたほうがいいかもしれません。さらにからだ全体の免疫力を高める事も効果的と思われます。すなわち、禁煙、規則正しい生活、過労やストレスをできるだけ避ける事、十分な休養、免疫をたかめるような食事をおすすめします。

196号 2003年12月21日

(11)増加する感染症@

 さまざまな情報にあふれている現代社会でも、メディアあるいは教育において情報の制限や選択が行われているため、国民が健康にしあわせに生きていくための必要な情報が少ないように思います。その結果、無知が原因で多くの病気が蔓延しています。性行為で伝播する性感染症も同様です。

 食欲・性欲は人類存続のための本能です。人類誕生から現在に至るまで、どのような規制があろうと性は本来おおらかなものです。しかし、性をとりまく環境がHIV(エイズウイルス)の登場以降、大きく変わりました。また、いくつかのやっかいな性感染症も急増傾向の現在です。大多数の国民が性感染症予防についての正しい知識を持ち、予防のための方法(コンドームその他)を理解しなければ、性感染症の大流行を引き起こすことになります。
 私たちの倫理観・道徳観は江戸時代の儒教思想の影響を受けています。徳川幕藩体制は北朝鮮と同じように国民の自由を厳しく制限する軍事独裁国家でした。徳川将軍は子孫を残すためと称して公然と愛人を多数江戸城に住まわせていました。各藩の藩主も同様に奔放な性生活を営んでいたようです。ところが幕臣や家臣や庶民には儒教思想をおしつけ厳しい道徳観や倫理観を強制していました。現在でも、政治家や事業で成功した人々のように権力やお金を持つと、同じようなふるまいをすることが多いようです。

特に現在は社会全体に性の情報が氾濫しています。セックスを露骨に表現している本やビデオが子どもにでも簡単に手に入れることができ、テレビや映画でセックスの場面がよくみられる生活環境です。そのため、若い世代の性の自由化は親が考える以上に進んでいるようです。大多数の小学生でもセックスについて知っているという報告があります。7割以上の女子高校生、6割の中学生が「愛していればセックスしていい」と回答している統計があります。年間4万件を超える10代の妊娠中絶をあなたはどう考えますか。
 実際「この5年間、性感染症にかかる若者が急増している」と産婦人科や泌尿器科の専門医の警告しています。この現実を認め、早急に性感染症予防のため必要最低限の性教育を小学生から段階的に行わなければならないと思います。


199号 2004年1月18日

(12)増加する感染症A

 病気にならないためには予防が最重要です。性感染症(性行為で伝播する感染症)についても同じことです。様々な性感染症が急増している現在です。最高の予防法は不特定多数のパートナーとはセックスしないことです。
 特に未成年の若者にはセックス以外に情熱をかけて青春のエネルギーを発散させることをお勧めします。やむをえずセックスにいたった時は避妊具(コンドーム)を使用することです。多くの性感染症は性行動の活発な若者や多数のセックスパートナーを持つ若者に起こりやすいのです。
 これは若者が性感染症についての正しい知識をもっていないことが原因です。例えば、国連の推定では今年新たに500万人がエイズウィルス(HIV)に感染し、1年間でエイズで300万人が亡くなっています。新たなHIV感染者の半分以上が15歳から24歳までの若者です。国連は特に15歳未満の子どもの性行為を憂い、エイズ感染防止の決め手は「性行為の開始年齢を遅らせるべきだ」と訴えています。

 性感染症には性器局所の病気と全身の感染を起こすものがあります。淋菌感染症、クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、性器ヘルペスは局所感染であり、エイズ、梅毒、B型肝炎は全身感染です。現在もっとも増加しているのがクラミジア感染症です。世界的にみても最も多い性感染症です。この病気は特に16歳から25歳までの若年女性に多く、女性優位の性感染症です。
 セックスパートナーが多く、防御意識にとぼしい場合に感染の機会が多くなります。自覚症状がないため、感染が持続し将来の不妊症や子宮外妊娠がおこりやすくなります。また自覚症状がないため、病院受診もなく治療もできず、次々と感染はひろがり続けます。
 最近若い人に子宮頸がんがふえています。欧米も同じ傾向です。これは子宮頸がんをひきおこすヒト乳頭腫(パピローマ)ウィルス(HPV)に感染する機会が、性交渉の低年齢化や性パートナーの増加とともにふえているからです。アメリカでは初めての性交渉後3年もしくは21歳を過ぎたら検診(細胞診)をすすめています。

 アメリカでは80%以上のガン検診を受診しているのに、日本では14%にすぎません。したがって日本では子宮頸がんは手遅れの状態で発見されるケースが多く、死亡率が高いのです。
 最大の問題はエイズです。


203号 2004年2月15日

(13)増加する感染症B

 最大の問題はHIV(エイズウィルス)感染です。エイズとは「後天性免疫不全症候群」という名前が示すとおり、HIV(ヒト免疫不全ウィルス)感染により、免疫力が低下し、様々な疾患がおこる病気です。
 世界エイズデー(12月1日)に国連が発表した推定では世界のHIV感染者やエイズ患者の総計は4千万人に達したようです。今年新たに500万人が感染し、1年間の死者が300万人!最悪の地域アフリカ南部10ヵ国では成人の20%が感染しています。感染率が40%で、まさに滅亡しつつある国もあります。
 そしてアフリカ北部、ロシア、アジアに感染はひろがっています。さらにインドと中国にもアフリカと同じように大流行が起こりつつあります。旅行や仕事で人々の移動が多い昨今です。感染症は国境を越え、誰にでも影響を及ぼします。
 現実に日本国内のHIV感染者は年々増え続けています。厚労省は毎年3千人の感染者が出ていると推計しています。妊娠時の検査でHIV感染に気づく妊婦が増加傾向で毎年100人以上が確認されています。

 HIV感染は発症まで10年以上の経過がありますが、発病すると短期間で死亡します。しかし、現在では薬の服用で5年、10年、15年・・・と生きながらえる事ができます。
 長期にわたる薬の内服そして薬の副作用等の問題はありますが、エイズは治療できる病気となっています。
 「エイズは不治の病」という恐怖心からエイズ患者に対して差別が現実にありますが、ひとつの病気として感染者を特別の目で見て差別することもなくなります。
 しかし、HIVとの闘いは予防に最大限の努力をするべきです。すべての世代を教育し、だれでもHIVについて正しく知り、その感染の仕方や予防についての知識を持たねばならないのです。

 HIVやエイズについて情報をすべて公開し、学校の性教育などで正しくこの病気を知ることが早急にすすめられなければならないと思います。そうすればHIV感染の急増を止め、HIV感染者やエイズ患者に対する差別をなくすことができると思います。

208号 2004年3月21日

(14)ハンセン病は普通の病気

 ハンセン病は、らい菌による細菌感染症です。主に抹消神経と皮膚が侵される病気です。結核や肺炎などと同じような普通の病気です。遺伝病や「業病」ではありません。らい菌の感染力は非常に弱く、感染したとしてもほとんど発病せず、多くの人は自然に治癒します。日本では年間数人が発症していますが、外来通院も可能で適切な治療により完治します。世界中で804,000人の患者がいます(1998年WHO発表)が、経済的な理由で治療ができないで放置されていることが多く、問題となっています。

 ハンセン病は紀元前6世紀のインドでの記録が残されています。
 10世紀から15世紀にかけてヨーロッパで大流行し、この病気に対して差別や偏見を大きくしたと思われます。1873年ノルウエーのハンセンがらい菌を発見しました。
 1943年結核治療薬スルフォン剤(プロミン)が治療に有効とわかり、ハンセン病は治る病気になったのです。1960年WHOが「らい菌の感染力は極めて弱い。患者を隔離する必要はなく、外来治療で十分」と勧告しました。
 日本では1907年、国がハンセン病患者の隔離政策を進め、1931年らい予防法によりすべての患者が隔離されるようになりました。1960年のWHOの上記の勧告後も、36年間もの長きにわたり患者の人権は無視され続け、やっと1996年らい予防法が廃止されました。2001年5月、国の患者に対する隔離政策は違憲との判決が出され、やっと患者の人権が回復しました。

 しかし現実社会では、昨年の黒川温泉の問題でもわかるように、国の隔離政策がもたらしたハンセン病に対する偏見や差別を多くの国民がまだ持ち続けていることも事実です。上記に述べたように、ハンセン病に対する正しい知識を全ての国民が持つことが重要です。
 そのためには学校教育でも教師・生徒ともどもハンセン病やエイズそして種々の難病に対する正しい知識を勉強し、教養としてしっかり身につける必要があります。そうすればそれらの患者さんに対する差別や偏見をなくすことができると思います。

 そして現在、ハンセン病の患者が受けたような偏見・差別を今度はエイズ患者が受けています。1989年2月に成立したエイズ予防法に「患者の福祉や人権よりも公共の福祉もしくは公衆衛生の向上を図ることをめざしている」という条文があります。まさに、らい予防法とおなじような性格をもつ法律です。

212号 2004年4月18日

(15)水俣病@ 〜人類史上初の巨大な環境汚染による病気〜

 水俣病はチッソ水俣工場排水中の有機水銀による中毒です。水俣病は公害の原点とも言われていますが、これは単なる有機水銀中毒ではなく、人間社会がうみだした化学物質による未曾有の環境汚染が原因の病気であり、またその有機水銀汚染により不知火海全域に大規模の被害(地域住民の健康、社会、経済文化等の被害)をもたらしたからです。そして、今もなお水俣病は現代文明がかかえる重大な問題を私たちに問いかけています。

 水俣病は数十万年以上の、人類史上初めての大事件です。これは次のことからも明らかです。

   ●水俣病は、工場から排出された化学物質(有機水銀)の環境汚染によって、食物連鎖を通じて起こったこと。

   ●化学物質が胎盤を通じて胎児性水俣病が発生したこと。

 水俣病の被害は広範囲にひろがっています。30年来、水俣病に取り組んでいる原田正純先生は述べています。「不知火海全域にひろがる水俣病の被害は、水俣に大きな原爆が落ちたと仮定すれば理解しやすいかもしれません」すなわち、1932年のチッソのアセトアルデヒド工場操業の水銀流出による環境汚染が始まり、1952年ごろより沿岸各地で魚介類、猫、鳥などに異変が確認され、この時期から急性劇症型の患者が発生しています。
 そして、1956年(昭和31年)水俣保健所により水俣病が公式に確認されましたが、その後も汚染は続き、被害は不知火海全域にひろがり、沿岸住民20万人に影響を及ぼしたと考えられています。また、魚介類の売買された範囲の人々200〜300万人にも少なからず影響があったかもしれません。 

 この巨大な政治的・社会的大事件、水俣病に対して企業、行政、あらゆる分野の学問も当初は戸惑い、さまざまな対応が遅れ、その結果今日までさまざまの分野での水俣病の解明が遅れてしまっています。本来なら、この史上初の広範囲の濃厚な環境汚染の被害を明らかにし、被害者を救済するだけでなく、汚染の被害による生活障害、地域の経済的、文化的崩壊、生態系の変化等もあきらかにしなければならないのです。しかし、現実には健康被害ですらそのほんの一部しかわかっていません。
 公的に水俣病と認められた方は2,200人で、多くの被害者は被害者としてさえ認められていません。水俣病公式発見50年後の現在もなお、被害の全貌はまだ明らかではないのです。


215号 2004年5月16日

(16)水俣病A 〜水俣病発生、被害の拡大、救済の遅れを問う!〜

 私たちは過去の過ちを繰り返さないために歴史を学びます。水俣病事件史から多くを学ぶことができます。なぜチッソという一企業から水俣病は発生し、企業・行政・医学がその被害の拡大を防ぐことができなかったのか。すべての患者救済が遅れているのはなぜか。
  魚貝類が極度にとれなくなった時、水俣病の原因が明らかになった時、有機水銀が工場内で副生していることがわかった時など、水俣病事件史の各時点で何らかの方策をとれば、有機水銀の汚染の拡大を防ぎ、被害を未然に防ぐことができたはずです。
  それができなかった理由は何か。企業・行政・各分野の学問の責任は重大です。現在その責任がどのように問われているのでしょうか。水俣病の発生を引き起こした企業の責任は裁判の中で明らかになりました。しかし、被害の拡大を止めることが出来なかった国や県の行政の責任は不問の状態です。水俣病の原因がチッソの排水中の有機水銀中毒であると確認した時点で、行政は巨大な食中毒事件としてとらえ、原因企業の告発と問題解決まで魚介類の摂取禁止を行うべきだったという意見もあります。

 水俣病は巨大な環境汚染による病気のため、汚染された魚介類を食べたすべての地域住民に何らかの影響があると考えられます。ところが補償の問題がおこり、公的に水俣病と認める認定制度が発足(1959年)、患者認定に医学が利用されることになりました。その結果、すべての水俣病患者の実態把握ができなくなりました。その理由は、水俣病の診断基準に高濃度の有機水銀中毒としての典型的なハンター・ラッセル症候群の症状だけをとりあげたからです。
 熊大の専門家は、はからずも述べています。「補償問題が起こってきた際に水俣病志願者が出現したので、過去においてわれわれはハンター・ラッセル症候群とすることで処理した」この認定制度により実質的に水俣病患者の発生は政治的に抑えられてきたのです。診断基準にはずれた大多数の慢性の水俣病患者たちは、公的には水俣病ではないと切り捨てられてきたのです。
 この認定制度が世界の水銀汚染の被害者の救済に影響を与えています。北欧・カナダ等の世界の水銀汚染において、日本の厳しすぎる判断基準が参考にされ、軽症の水俣病の発生が否定されています。
 学園大教授原田正純氏は水俣病を総合的に捉える「水俣学」を提唱し、さまざまな分野から水俣病の実態を明らかにする事を始めました。ここに70年に及ぶ水俣病事件の歴史を明らかにする作業がやっと始まったのです。
水俣病の教訓に学ばねばなりません。そして未来をになう子どもたちや世界の人々に語り継がなければなりません。

 参考図書:「水俣学研究序説」(藤原書店) 「水俣学講義」(日本評論社)


220号 2004年6月20日

(17)水俣病B 〜未来への警告〜

 私たちは身体も心も環境に大きく影響されています。10万種類の化学物質が流通する現在、猛毒の化学物質で環境が汚染され、地域やそこに住む人々に破滅をもたらす例が増えています。
  原田正純氏は胎児にとって子宮は環境そのものであり、環境を汚す事は子宮を汚すことであると主張されています。彼はこの事実を胎児性水俣病の母親から学びました。1961年夏、原田氏は患児の母親より胎児性水俣病の存在を指摘しました。毒物は胎盤を通らないとの医学の常識のため、当時水俣で障害をもって生まれた多数の子どもは脳性小児麻痺と診断されていたのです。原田氏は彼らの症状は有機水銀中毒が母体内で起こったものであると主張しました。
  病理学武内教授が2例を剖検し、胎児性水俣病を確認し、1962年11月全員が胎児性水俣病と正式に診断しました。世界ではじめて胎盤由来の中毒が証明されたのです。
  神経病理学者白木博次氏は環境ホルモンとしてのメチル水銀に注目し、メチル水銀が体内のホルモン系・免疫系・神経系の三系の臓器に及ぼす影響を「環境ホルモン」の視点から見直さなければならないと述べています。環境ホルモンの問題としてそして全身病としての水俣病を捉えたとき、水俣病は水俣だけの病気でなく、すべての日本人にもかかわる病気となります。

 なぜなら、日本は水銀汚染大国です。 1964年東京オリンピック で世界各国の若い選手の頭髪を調査、西ドイツの若者は0.1ppmで最低、日本は最高値の6.5ppmの総水銀値でした。これは農薬が原因と思われます。当時ヘリコプターから水銀農薬を水田全体に散布していました。一旦田畑に入った水銀は簡単には出ていきません。現在では魚介類中の水銀値も高値を示しています。今もなお日本人の水銀値は世界一です。この日本では胎児から高齢者までみな潜在水俣病の可能性さえあるのです。
  化学物質による病気としての水俣病は、はじまりにすぎません。さまざまな化学物質汚染が現在も進行しています。水俣病は未来への警告なのです。

◆ 参考図書
   「金と銀 私の水俣学ノート」               原田正純 講談社
   「全身病 しのびよる脳・内分泌系・免疫系汚染」   白木博次 藤原書店
   「冒される日本人の脳 ある神経病理学者の遺言」  白木博次 藤原書店


224号 2004年7月18日

(18)水俣病C 〜生活の中から環境について考える〜

 人類は今もなお戦争を繰り返し、また地球環境を破壊し続け、21世紀の中頃には、地球環境破壊は深刻になり危機的な状況になります。人類は幸せになるために現代科学文明を発展させてきましたが、現実は人類自らを破滅させる方向に進んでいます。しかし、私たちは現実から目をそらさず人類の犯したさまざまな過ちを真剣に検証し、未来への道を切り開いていかねばなりません。

 水俣病は、原因となった猛毒の化学物質「メチル水銀」だけでなく、さまざまな化学物質汚染の危険性を問いかけています。日本も含めて先進国では、人々は現代文明を享受し便利で快適な生活をすごしていますが、日常生活環境においては無数の化学物質を利用しています。特に各種有機塩素化合物(プラスチック、合成繊維、洗剤、溶剤、工業材料、農薬、薬品など)は日常的に用いられていますが、これらは扱い方いかんで地球規模の環境汚染となります。また、以前使用された水銀農薬、有機塩素系農薬は現在使用禁止になっていますが、環境中にそのままの形で残留しています。またPCBやDDTの分解産物やダイオキシン等の環境ホルモンは現在も環境汚染が進行中です。

 水俣病は終わってはいません。水俣病は化学物質汚染による病気の始まりです。水俣病から学ぶことは多くあります。原田正純先生の提唱された「水俣学」のように水俣病をあらゆる観点や分野から捉え直す作業が必要です。水俣病を深く理解することにより、日本中に静かに進行するさまざまな化学物質汚染による健康破壊や地域破壊を知ることができます。そして今後同じ過ちを二度と繰り返さないよう対策をたてなくてなりません。

 水俣では、深刻な水俣病の体験を人類への警告として行政・すべての市民が真剣に受け止め、二度と水俣病のような事件を繰り返さない事を誓いました。現在、水俣市は環境モデル都市(国際環境都市)として再生しています。行政と市民が一体となりまちづくりを推進しています。ごみの分別収集・リサイクル・減量化、市役所や事業所の環境保全、市内の全小中学校のビオトープ(生物が生息する場所)の整備、環境共生の地域づくり等々が行なわれています。私たちも水俣の人々に学び、日常の暮らしの中で環境について考え実践していかなければならないと思います。

228号 2004年8月22日

(19)肥満とダイエット@ 〜肥満予防と改善のための方法〜

 飽食の時代です。飽食がもたらす弊害、肥満について述べます。
 肥満とは身体に脂肪が過剰にたまった状態を指します。肥満が問題なのはさまざまな合併症を伴うからです。
 すなわち、肥満により糖尿病・高血圧症・高脂血症・脂肪肝になります。そして動脈硬化が進行し狭心症・心筋梗塞・脳梗塞が合併しやすくなります。また乳ガンをはじめさまざまなガンになるリスクが高くなります。最近の報道では、アメリカでは全国民の30%が肥満であり、肥満に関連する病気で年間40万人もの方が亡くなっているとのことです。
 肥満がもたらす病気の治療でばく大な医療費がかかり、国家的な問題となっています(肥満による社会的コストは年間12兆円)。日本でも肥満人口は増加しています。成人男性では1,300万人、成人女性では1,000万人と推計されています。とくに30〜60歳の男性では、肥満者が30%に達しています。壮年期では、内臓の周囲に脂肪がたまる内臓脂肪型肥満が多くなり、病気になりやすいようです。

◆ 肥満の原因として
   ☆過食
   ☆食生活の内容
   ☆遺伝
   ☆運動不足

 などがあります。肥満を予防し、改善するためには、食べ物と食べ方を変えて、過食を避ける事からはじめます。まず「よく噛む」ことです。少量の食べ物を口に入れたら何回もよく噛み、ゆっくり食べることを心がけます。早食いをやめ、ゆっくり食べる事で食べすぎを防ぎます。

 戦後、米中心の日本食からアメリカ風の食生活(パン、動物性食品、ジャンクフード)に変わりつつあります。その結果、日本人の体格もアメリカ風に変化していますが、同時に肥満や病気も増加しています。しかし、白米のご飯や砂糖を多用する日本食にも問題があります。なぜなら、精製した炭水化物(白米、砂糖)を食べると、急激なインスリン増加をもたらします。朝から夜までそのような炭水化物を摂り続けると高インスリン状態が持続し、インスリン抵抗性(インスリンが効かない)となり高血糖が続きます。
 肥満や糖尿病が増加しているのは、白米・砂糖の食生活にも関係があると思います。

 健康のためには、甘い砂糖たっぷりのお菓子をやめ、白米から精製しない穀物(玄米、雑穀類)に切り替えてみてはいかがでしょう。

232号 2004年9月19日

(20)肥満とダイエットA 〜十分な睡眠と正しい食事で肥満や病気にならない〜

 1879年エジソンの「電球」発明以来、人工光により大多数の人々が夜中まで起き、炭水化物や糖を大量にとるようになり肥満や成人病・ガンが増えています。これは体内ホルモンのネットワークの異常が原因と推測されています。人工光のため多くの人々は慢性的な睡眠不足となり内分泌系が混乱状態です。
  睡眠不足により、体内でメラトニンとプロラクチンが著しく減少します。(最も有効な酸化防止剤であるメラトニンの分泌が低下すると白血球の免疫機能が低下します。また夜間のプロラクチン分泌が低下すると免疫に関与するリンパ球のNK細胞とT細胞の数が減ります)すなわち睡眠不足が長く続くと免疫力が低下し、感染症やガンにかかりやすくなるのです。
 人工光により「昼」の時間が長くなると、人類の体は「夏」だと解釈し、炭水化物を渇望しとり続けます。余分な炭水化物はインスリンの働きで脂肪やコレステロールとして貯えられます(体脂肪)。一方、炭水化物の過剰摂取により、インスリン抵抗性(インスリンに反応しない)となり、高血糖状態が続きます。夜遅くまで起きて、過食を続けると高脂血症、肥満、糖尿病、心臓病になるリスクが高くなります。
  セロトニンは衝動をコントロールする神経伝達物質です。眠らないで炭水化物を多量にとり続けると、インスリンそしてセロトニンが上昇します。すなわち、ストレスの多い私たちの生き方や食生活がセロトニンの高い状態をつくり、永遠に絶望的な精神状態「うつ病」をつくりだします。一方、慢性的にセロトニン・レベルが高くなるとセロトニン抵抗性となり、セロトニンが欠落した状態“衝動と攻撃性が爆発”となります。十分睡眠をとるとセロトニン・レベルが正常になります。
 短い夜は、メラトニンの減少をもたらし、そして続いてエストロゲン(女性ホルモン)とテストステロンが増加し、コルチゾル濃度が上昇し、インスリンが増えます。これらのホルモンの増加は腫瘍発生を刺激し、乳がん、前立腺がんになるリスクが高くなります。

 鳥のように夜になれば眠り、朝日とともに起きる、季節に合わせて眠る生活をし、本物の安全な食べ物を少しいただいて、日々をやすらかにすごしていればおそらくガンにはならないと思います。さあ、今日から騒々しいテレビを消して、いつまでも「昼」をつくる電気を消してはやく眠りについてみませんか。

 参考文献「眠らない人は太る、病気になる」    はまの出版
       「睡眠食堂―眠りこそ魂のごちそう」  有朋書院

236号 2004年10月17日

(21)肥満とダイエットB 〜アトキンス・ダイエットについて〜

 様々なダイエットの中で、アメリカでは低カロリー・高脂肪療法のアトキンス・ダイエットが有名です。アトキンス博士の著書Diet Revolutionが最初出版された1970年代で1,000万部以上のベストセラーとなり、最近でも1,000万部近い売り上げです。
  彼によれば「人間のエネルギーは炭水化物からつくられる糖と脂肪の二つのエネルギー源からつくられる」。彼は「一方のエネルギー源をなくしてしまえば、もう一方のエネルギー源が完全燃焼する効率が高くなり、肥満の元である使われないエネルギーがなくなる」と考え、「炭水化物の摂取をできるだけ制限する」ダイエット法を提唱しました。したがって、このダイエットでは肉や魚、チーズや卵などの高タンパク、高脂肪を主に食べ、ご飯やジャガイモ、パンやパスタなどの炭水化物を制限します。
  もちろん白砂糖の多いスナック菓子、甘い飲料、デザートは食べてはいけません。狩猟民族の末裔であるアメリカ人には肉食は自然であり、このダイエットは試みる人が多いようです。しかし、最近ではアトキンス・ダイエットに対して否定的な意見もあります。(体重は減っても動脈硬化がおこり心臓病で亡くなることがある、あるいはリバウンドでもとの体重にもどるケースもある等々)
  私見ですが、日本ではアトキンス・ダイエットは普及しないと思います。なぜなら、農耕民族の末裔の日本人は、数千年間お米や雑穀の炭水化物や野菜中心の食事をしてきて、肉食が本来の食習慣ではありません。戦後アメリカの食糧戦略で、欧米風食事が広がっていますが、その弊害も指摘されています。また、残念ながら本当に安全な食肉や魚を手に入れるのは難しいようです。

 多くの人々は食べ物に無頓着ですが、食肉や魚の中の抗生物質耐性菌の問題があります。狭い畜舎に押し込まれ短期間で出荷できるまで育てられる牛や豚やニワトリには大量の抗生物質が使用されています。魚の養殖場も同じように過密状態で、感染症対策には抗生物質を使用します。
  年間使用される抗生物質は、ヒト医薬品が520トン、家畜に1,060トン、養殖魚に230トン、農薬として400トンです(2003年10月農林水産省発表)。耐性菌のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)だけで、年間2万人が院内感染で亡くなっています。その原因として、医療用抗生物質だけでなく、家畜に大量に使う抗生物質も考えられています。

 次回は、安全でからだにやさしい健康法・ダイエット『ニューヨークと東京で流行しているマクロビオティック料理(玄米菜食)』を紹介します。

241号 2004年11月21日

(22)肥満とダイエットC 〜マクロビオティック〜

 今、世界に誇る食文化〜日本食〜が見直されています。
 日本が世界一長寿であるのも富と教育そして食べ物「日本食」のおかげであるとも言われています。日本食で白米を玄米に、肉や魚をやめて野菜・海草にきりかえたのが最近流行のマクロビオティック(穀物菜食)です。

 マクロビオティックの基本は「身土不二(地産地消)一物全体(食べ物はまるごといただく)良く噛むこと」です。これは100年前より始まり、最もお金のかからなくて安心して行える、本当に健康にいい食事方法です。そしてダイエットとしても最適です。
 すなわち、マクロビオティックは明治40(1907)年に陸軍薬剤監の石塚左玄の「食養会」から始まっています。食養会の趣旨はきわめて明快です。「食物はその国の気候風土、個人の体質に応じて分量や成分を考慮する。人間の寿命、健康、性格など、すべて食物によるものであり、これは国の安否にもつながる。体質や性格は食物によって形づくられもので、先天的なものではない」「玄米飯は完全な食物だから、おかずはごま塩と少量の古漬物があればよろしい(大正7(1918)年味噌汁が追加)」。

 食養会で有名なのが桜沢如一と東大医学部公衆衛生学教授二木謙三です。桜沢はG・O(ジョルジュ・オオサワ)と名乗り世界各国に出かけ活動しました(1929年パリへ)。彼は古代ギリシャの哲学者が使っていた「マクロビオス」(自然に即した命のあり方)という言葉を現代によみがえらせ、食事法だけでなく健康に生きる方法として「マクロビオティック」を全世界に広めたのです。
 弟子たちの中で久司道夫はアメリカを中心に全世界に「マクロビオティック」を普及し、多くの知識層に影響を与えています。石塚左玄は生命の問題を考え、圧倒的なヨーロッパ化の激流に抗して、日本の風土に根ざした日本の伝統的民族食として玄米と野菜を主にとる食養を説きました。

 1945年の敗戦後、アメリカ化が激流のように押し寄せ、日本の文化、経済、学問、食べ物、食生活すべてに影響をおよぼしています。長年の欧米風の食事による生活習慣病の蔓延、ガンの急増で日本人の心と体は最悪の状況になっています。今、日本本来の伝統食に根ざした食べ物、生き方のマクロビオティックが脚光をあびているのも頷けます。

249号 2004年12月23日

(23)健康と死を考える 〜スピリチュアルな健康とは〜

 すべての人はいつまでも健康に元気に長生きしたいと願っています。世界保健機構(WHO)は、健康を基本的人権の一つととらえ、その達成を目的として設立された国連の専門機関です。WHOの健康の定義が「完全な肉体的、精神的及び社会福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」(WHO憲章)です。

 1999年WHOは理事会決議として健康の定義に「スピリチュアルに健康な状態」を加えました。スピリチュアルとは、「精神の、心の、霊魂の」等の訳があります。
  日本では医療制度が充実しているため、今のところすべての方々が医療を受けられます。そのため医療機関に病気や死が集中し、死が忌むべきものとして一般生活から遠ざけられています。しかし、いつか人間は死にます。死を小さいときから身近な出来事として捉えることも重要です。死を真剣に考えることで「生きること」のすばらしさを実感できると思います。
 人類が地球上に現れ、自らの考えを持ち始めたときより、「死」は永遠の課題です。さまざまな宗教者が、長年の修行と体験から啓示をうけ、「死」を克服する智慧を述べています。
 仏教では次のように考えています。「生きていることのすばらしさ、そしていのちや健康より大切な“智慧と慈悲の世界”に気づくと心豊かな人生をすごすことができます。
 医療の世界では、健康で長寿が目的となっていますが、仏教ではいのちの長さは問題にしません。人間として成長することが重要なのです。人間の本当の目的とは、生きることの意味・使命・役割を気づき、実現させることです」

 いかなる人でも、死への恐怖を持っていますが、これを克服し人間の本来の目的に気づいた時が、スピリチュアルに健康な状態と言えるかも知れません。

 「生と死」についての講演会が開催されます。あなたも「死」について一度考えてみませんか。

253号 2005年2月20日

(24)健康は日々の生活から!

 近年、大地震・大事故・大事件が多いが、ニュース番組を人ごとのように見ている私たちは、これらの天災や人災の被害者やご家族の苦痛を本当に理解することは難しいかもしれません。しかし、今や、いついかなる時でも、私たち自身が被害者の側になるかもしれない時代に生きているのです。自分だけは安全であると安心はできません。
 病気についてはどうでしょう。突然、体の変調をきたし、病院で大病を宣告されることがあります。青天の霹靂(へきれき)ともいうべき発病と思われるでしょう。しかし、病気は予防ができることが多いのです。それは、病気の原因究明によりさまざまな事がわかってきているからです。

 化学物質が大規模な環境汚染をもたらした結果起こった水俣病などの公害病のように、原因物質が明らかな病気もあります。公害病はまさに大規模な人体実験ともいうべき大事件です。農薬・殺虫剤まみれの輸入農産物や食品添加物入りの加工食品等を、日常とり続ける日本人の食生活も考えようによっては、化学物質の長期微量摂取という壮大な人体実験ともいえるかもしれません。
 人類史上最大の環境汚染ともいうべき電磁波汚染についても、ほとんど情報公開されていませんが、現実には健康被害が増えています。強力な電波をだすアンテナ・塔や高圧線の下に住む方々に白血病が多いとの外国の報告もあります。先日の熊日の評論で研究者が「携帯電話の使用は、その安全性が確認されていないので壮大な人体実験かもしれない」と述べていました。
 たばこ関連死が年間10万人、たばこが主に原因の慢性閉塞性呼吸器疾患の患者数1千万人。このたばこの有害性についても明らかです。
 しかし、現実には多くの方々は、食べ物・食生活や生活習慣にはあまり関心をもたれていないようです。あまりにも無頓着にたばこを吸い、携帯電話で長電話をしています。もっと自らの健康を自らで守ることに心がけなければならないと思います。

     そのためには、万民の幸せを願うはずの政治家・行政の方々やマスコミの予防医学への真剣な取り組みが求められています。上記について様々な病気・健康の情報を積極的に情報公開がなされ、子どもから大人まで理解していただくと、多くの方々が病気にならない方法を学ぶことができるでしょう。

265号 2005年5月22日

(25)医原病@ 〜医原病とは?〜

 医原病とは、医療行為が患者さんに不利益をもたらすこと全般をいいます。血液製剤によるウイルス感染症のエイズやC型肝炎などさまざまな医原病があります。テレビなどのマスメディアの過剰な健康情報が人々に健康不安をもたらす「健康不安病」も医原病といえるかもしれません。
 医療関係者が医原病について話すことはまさに天につばをするようなものです。厳密にいえば私を含めて医原病にかかわりのない医療関係者はいないからです。しかし、あえてこのことを取り上げるのは、日常診療や日本のどこかで、現実にすでに医原病になっている患者さんが何の医療保障も受けられず、悲しみ苦しんでいる現状を見聞しているからです。医原病の実態を知ることが、あらたな医原病をつくりださない事にもなるからです。

 医原病の患者さんは現在の治療ではなかなか改善せず、病状は年々悪化していきます、そして精神的におちこみ悶々とされておられます。本来であれば加害製薬会社、加害医療機関や国家が患者さん方を心身ともに救済すべきですが、患者さんが声を出さなければ積極的な救済対策をとろうとはしません。
 もちろん人間の営みは完全ではありません、すべての仕事や職場でミスや間違いがおこります。その典型的なのがわが国の政治家や官僚の大失政です。現在日本の借金が1千兆円とも2千兆円とも言われまさに破産状態です。 戦後60年でこのような破産国家にしてしまった政治家や高級官僚たちは説明責任も果たさず、高額の退職金と年金を受け取り、悠々自適の生活を送っています。この政治家・官僚たちの大失態が日本の経済の大不況をもたらし、現在に至るまで私たちの生活まで悪い影響をおよぼしています。年間自殺者が3万人以上もこの大不況と無関係ではありません。

     最近さまざまな医療過誤が噴出しているように医療業界でもミスや間違いはおこります。医原病がいかにおこってきたのか、医原病を防ぐ方法、そして医原病の患者さんの救済について次回から取り上げてみたいと思います。

269号 2005年6月19日

(26)医原病A 〜薬害〜

 代表的な医原病が薬害です。薬は古代から草根木皮と言い、植物が多く、草を煎じたり、根っこの部分を干して服用しました。草根木皮が病に効くことから、近代になってその中の何か有効な成分を取り出そうと試みられ、有機合成医薬品がうまれました。

 19世紀になって、次々と有効成分がみつかり、20世紀に入って薬はめざましく発達しました。伝染病に対する予防ワクチンや治療血清などの生物学的製剤が開発され、ガンの化学療法剤やホルモン剤、ビタミン剤、抗生物質製剤の研究がすすみました。人類のいのちと健康に欠かせないものとなっています。しかし、薬の安全性についてよくわからないことが多いのも事実です。
 医薬品には多かれ少なかれ、副作用(生体に有害な作用)があります。病気治療には、いのちにかかわりがない軽い副作用はやむをえないとされています。しかし、副作用と薬害は紙一重の差です。個々の人々により薬の作用や反応は千差万別で、医薬品のために重い病気になり、いのちをおとすこともあります。
  医薬品の有害性に関する情報を、加害者側が故意にしろ過失にせよ、軽視・無視した結果として社会的に引き起こされる健康被害が「薬害」です。どのような薬でも、時には毒にもなることを認識しておくべきです。

 薬害は1950年ごろから日本各地に多発しています。ペニシリンショック(1,276人ショック、124人がショック死)、1961年サリドマイド事件(睡眠・鎮静剤内服で手足に異常がある子どもが誕生)、1970年キノホルム中毒(胃腸薬キノホルム内服で重度の神経症状を引き起こすスモン病となる)、1983年薬害エイズ、1992年陣痛促進剤(死産や子宮破裂)等々報告されているだけでも53例もあります(1997年7月まで)。
 わが国では、いのちと人権があまり尊重されていないため、薬害被害者は声をあげ裁判を起こさない限り、救済される事はありません。現在まで数多くの薬害事件も裁判ではじめて公にされ、社会問題となってきました。

     ここに言葉を聴くだけで医師としての重責と倫理感を再認識させる「ヒポクラテスの誓い」があります。明治以来わが国でも西洋医学の開祖としてヒポクラテス(紀元前460〜375年)は有名です。この誓いの中に「私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。頼まれても死に導くような薬を与えない」という言葉があります。医療関係者・製薬会社・厚生官僚はこの言葉を肝に銘じて薬害被害者の救済に全身全霊をかけていただきたいものです。

273号 2005年7月17日

(27)医原病B 〜C型肝炎T〜

 C型肝炎とは、C型肝炎ウイルス(HCV)の感染によって起こる肝臓の病気です。HCV感染者の約7割が持続感染者(キャリア)になり、キャリアの約7割が慢性肝炎になります。ほとんど自覚症状がなく、治療せずに放置すると肝硬変・肝臓がんに進行することがあります。治療を開始しても完全治癒が出来ないことがあります。現在、インターフェロンとリバビリン(抗ウイルス剤)の併用療法で有効率(ウイルスを完全排除する率)が約40%です。HCVを排除できない場合は、肝硬変や肝がんになることを予防したり、遅らせたりする治療になります。

 この時、思い切って代替医療を選ばれたほうがいいかもしれません。玄米菜食・少食療法は免疫機能を高め肝炎ウイルスの働きを抑えることができます。肉・魚・乳製品などの動物性蛋白質は充分消化吸収ができないため、腸内細菌の生態を狂わせ有害細菌を増やし、さまざまな毒素を発生させ肝臓に負担をかけます。日常の食品中のさまざまな有害化学物質も肝機能を低下させます。逆に、無農薬の安全な玄米菜食は肝臓の働きを高めます。大阪の甲田医院の甲田光雄先生はこの少食療法で、多くの肝炎患者さんの治療を行い、いい成績をあげられています。
 C型肝炎は全国で150万人〜200万人以上が感染していると推定されています。厚生労働省はC型肝炎について広く国民への情報提供を行い、2002年から市町村が実施している住民健診に肝炎ウイルス検査を組み込みました。しかし、対象は40歳以上で5歳刻みの年齢の人だけです。それでも2002年度は全国で192万人が検査を受け3万1千人が陽性でした。早急に全国民のC型肝炎罹患の実態調査を実施していただきたいものです。

◆ 下記のような方はC型肝炎ウイルスの感染の可能性が高いので検査が必要です

†1992年以前に輸血を受けた人

†非加熱血液凝固製剤を投与された人

†フィブリノーゲン製剤を投与された人
 (産婦人科の病気やその他で出血が多かった方や、大きな手術を受けられた方に使われた可能性があります)

†大きな手術を受けた人

†薬物濫用者、入れ墨をしている人

†その他(肝機能検査で異常の人その他)


281号 2005年9月18日

(28)医原病C 〜C型肝炎U〜

 C型肝炎ウイルス(HCV)の感染力は弱く、日常生活では感染しません。感染は血液を介して行われます。すなわちはHCVに感染している人の血液のウイルスが他の人の血液に入り、感染します。感染の原因は主に輸血や血液製剤ですが、戦後の医療機関での注射器による感染も否定できません。
 以前、輸血後肝炎(血清肝炎)が話題になっていましたがこれは手術などで輸血された時に起こる肝炎の事です。戦後から1960年代まで臨床の現場で大問題になっていました。流行する肝炎がA型肝炎、血清肝炎がB型肝炎と呼ばれていました。1960年代後半、輸血用製剤の売血から献血だけに切り替わり、そしてB型肝炎ウイルスの発見とその検出試薬による血液検査が可能になり、輸血後肝炎がやや減少しました。
 しかし、その後も輸血後肝炎の発症は増加傾向となり、非A非B型肝炎として社会的問題になっていました。輸血した人の半分が、輸血後肝炎になる施設もあったほどです。 1988年アメリカでHCVの遺伝子の断片が見つかり、その後ウイルスの本体が明らかになり、これらの肝炎はC型肝炎と名づけられました。1989(昭和64、平成元)年、感染の有無を検査できるようになり、1992(平成4)年2月から、より精度の高い検査(HCV抗体検査)に切り替えられてから、輸血によるC型肝炎ウイルスの感染は殆どなくなっています。

 一般人口に占めるHCV抗体陽性者の比率は、欧米では0.1〜0.2%ですが、日本では 1〜2%と一桁多いようです。これは日本では長い間、1本の針で複数の人に注射をしていた事も関係があるかもしれません。1940年代から欧米では、注射針を複数の人に使用しないという原則があります。これは検査のための採血にメスを使っていたところ、検査を受けた人たちが次々と黄疸になったことから、その原因を検討したところ、1本のメスを共有していたことがわかったからです。
 1945年イギリス保健省は注射器ごと一人ひとり取り替えなさいという通達を出しました。日本では1988(昭和63)年になってやっと厚生省保健医療局が「針も注射器も一人ひとり替えましょう」という通知を出しましたが、非常に遅い対応と言わざるをえません。これは日本では個々人に対する健康の問題が大変軽く考えられてきたことも原因です。現在もその状況はかわらず、日本の医療対策がいかに遅れているかがわかります。


285号 2005年10月16日

(29)医原病D 〜C型肝炎V〜

 前回までにお話した様に、C型肝炎は明らかに医療行為が齎した病気〜医原病〜です。しかし、この医原病の被害者の方々に対する救済は全くなされていません。そして患者さんは時の経過とともに病状が悪化していきます。このような患者さんの救済・真相究明と治療体制の確立を目的として現在、全国各地で薬害肝炎訴訟が進行中です。血液製剤(フィブリノゲン製剤及びクリスマシン、PPSB)によりC型肝炎ウイルスに感染した人たち(患者さん、亡くなられた患者さんのご遺族)が原告です。薬害肝炎訴訟九州弁護団は無料相談を行っています。お心当たりのある方はご相談されてはいかがでしょう。

 電話092-735-1195

フィブリノゲン製剤は血液からつくられる製剤で止血剤として使われていました。アメリカでは、止血の効果に疑問があることと、肝炎感染の危険性が非常に強いので1977年販売停止となっています。
 しかし、日本では1980年代以降も使用され続けた結果、7,004ヵ所の医療機関で約30万人もの方々に使用されました。この製剤は止血剤のため内科・外科・産婦人科・小児科等全ての専門で使われていました。したがって「この製剤による肝炎感染の約6割が30歳未満の若年層」「新生児治療でC型肝炎」等の報告もあります。また「薬害肝炎の発症率が54%」との報告(1984年東大病院心臓手術症例)もあります。
 この国では、さまざまな病気や出来事で心身とも病み疲れた方々でも、憲法25条(生存権、国の社会保障的義務)に基づいて、生活が保証され治療がうけられ、安心して安らかに生きることができるはずです。

 輸血・血液製剤やその他の原因でC型肝炎になられ、慢性肝炎、肝硬変、肝臓がん等で苦しまれている方々に対して、現在もなお、発症の原因の説明もなく治療への援助も全くありません。当時の医学的水準では発症の予測は不可能だったかもしれませんが、担当の医療機関は道義的な責任はあり謝罪と補償がなされねばならないと思います。そして国はC型肝炎の真相究明、被害の実態調査そして患者さんに対してさまざまな救済対策を早急に行っていただきたいものです。

290号 2005年11月20日

(30)医原病E 〜その他の医原病〜

 確かに、医学の進歩のおかげで多くの病気が治り、多くの命が救われています。しかし、一方では患者さんに全く悪影響のない理想的な薬や医療技術がないため、医原病が出現する事もあります。

 予防接種のワクチンによる医原病。難しい問題です。予防接種によって獲得した免疫が感染症の流行を抑制しています。しかし、極めて少ないがワクチンによる健康被害も起きています。麻疹ワクチン接種後、脳炎・脳症や亜急性硬化性全脳炎SSPE(100万人に0.5〜1.0人)の発症が報告されています。日本脳炎ワクチン接種後に、極めてまれですが急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を起こしています。そのため本年から日本脳炎ワクチンの接種は中止になっています。

 健康不安病という医原病。健康になるには、禁煙、禁酒、摂生、運動、食べ物等生活習慣に注意することが基本ですが、テレビ・新聞・雑誌のメディアはそれだけでは商売にならない。医師、専門家や学者を動員して過剰な程の健康情報を流しています。おまけに健康産業はそれに便乗し、連日のように誇大広告を行っているので、人々の健康不安はさらにひどくなっていきます。この不安の解決法として人間ドックを利用しても、8割の人たちが何らかの異常を指摘され、まったく不安は解消しません。そもそも生活習慣病やガンの早期発見・早期治療という予防医学(2次予防)のPRのおかげで、検診・人間ドック産業は成り立っています(年間7千億円)しかしその有効性はいかほどのものでしょうか。現在も生活習慣病やガンの患者数は大きく減少はしていません。

 検診での医原病。英国オックスフォード大学の研究報告によれば、全ガンに占める発ガンリスクの3.2%がガン検診などのCT検査によるX線被爆が元凶とのことです。厚生労働省が胸部X線検査を2006年度から廃止しますが、その理由が「肺ガンの発見率が低い、X線被爆で発ガンの恐れがある」等々で「科学的根拠がないから」とのこと!

 その他、さまざまな医原病がありますがあまり世の中に知られていません。それでは、医原病を予防するにはどうすればいいのでしょうか。

 参考文献:「ノーモア薬害―薬害の歴史に学び、その根絶を」 片平洌彦著 桐書房