緑ヶ丘区  弁護士 衛藤二男 A


827号 2016年10月23日

(31)自然災害による被災者の
債務整理に関するガイドラインA

 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下、本ガイドライン)に基づいて債務整理を申し出ることができる債務者の要件については、前回に簡単に説明しましたので、今回は少し詳細に説明しましょう。

@ まず、要件の1つである「住居や勤務先等の生活基盤や事業所、事業設備、取引先等が熊本地震の被害を受けたことにより、現在負担している住宅ローンや住宅リフォームローン、事業性ローンその他の債務を弁済できなくなっていること、又は近い将来その債務の弁済をできなくなることが確実に見込まれる」ということです。
 これは、熊本地震で被害を受けた結果、債務の返済ができなくなった又は近い将来困難になることが確実であるという、因果関係が必要であるということです。したがって、熊本地震よりも前から既に債務の返済が困難になっていた等の事情がある場合は、本ガイドラインは使えません。
 債務の返済ができない又は近い将来その返済が困難になることが確実かどうかは、債務者の財産や収入、信用等の資産、債務総額、返済期間や利率等の返済条件、家計の状況等を総合的に判断して決められます。債務者の資産には、地震による被災者へ給付される被災者生活再建支援金、災害弔慰金や災害見舞金、義援金等も含まれますが、熊本地震の場合は、これらの支援金や義援金は、債務の返済に充てられるものではないとして、債務者の返済能力を判断する際の資産としては考慮しなくてもよいことになっています。

A 次の要件は「弁済について誠実であり、負債を含む財産の状況を債権者へ適正に開示している」ということです。これは、債務整理の申し出をして、本ガイドラインに適合する債務整理案(調停条項案)を作成するについて、債権者へ提出する債務整理申出書や財産目録・債権者一覧表の記載に虚偽の記載がされておらず、提出可能な添付資料も誠実に提出されていることを意味します。

B 次に「熊本地震が発生する前に、現在負担している債務について、期限の利益を喪失させる事由がなかった」という要件です。「期限の利益」というのは、債務の返済条件として、債務の総額を一括返済するのではなく、毎月一定の期日までに多数回に分割して返済することによる債務者の受ける利益のことです。通常は2〜3回、毎月の期限までの返済を怠ると当然に分割返済ができなくなり、残債務の一括返済と遅延損害金の支払いをしなければならなくなります。このことを「期限の利益を喪失する」といいます。
 その他に4つほどの要件がありますが、これらは債務者を無償で支援してくれる登録支援専門家(弁護士)が専門的な観点から判断しますので、省略します。

 次回は、本ガイドラインに基づく債務整理の申し出手続きのお話です。


832号 2016年11月27日

(32)自然災害による被災者の
債務整理に関するガイドラインB

 最終回は、まとめとして、この債務整理の申し出から終了までの手続きの概要をお話します。

◆1 債権者への手続き着手の申し込みと同意
@まず、熊本地震による被災者(債務者)は、住宅ローンを組んだ金融機関(債務の元本総額が最大の債権者で、主たる債権者といいます)に対して、本ガイドラインに基づく債務整理手続きに着手する旨を書面で申し出ます。
Aこの債務者からの申し出に対し、主たる金融機関は申し出を受けてから10営業日以内に、その申し出に同意するかどうかを書面で回答します。

◆2 登録支援専門家の選任依頼とその委嘱
@次に、メインの金融機関から債務整理の申し出について同意を得た債務者は、関係機関(弁護士会、公認会計士会、税理士会、不動産鑑定士協会等)を通じて、全国銀行協会(全銀協)に対し、関係機関に登録された登録支援専門家を委嘱することを依頼します。
A全銀協から推薦依頼を受けた関係機関は、登録支援専門家を全銀協へ推薦し、その推薦に基づいて全銀協は登録支援専門家の委嘱をします。ほとんどの場合、初めに弁護士が登録支援専門家として委嘱され、必要に応じて不動産鑑定士等が委嘱されているようです。

◆3 債権者への債務整理の申し出
@登録支援専門家が決まると、債務者は登録支援専門家の援助を受けながら、メインの債権者(金融機関)のみならず、原則として全ての債権者に対して、書面により債務整理の申し出をします。
Aその申し出の際には、財産目録、債権者一覧表、陳述書(事情説明書)その他必要書類を揃えて、これを債権者へ提出します。
B注意しなければならないのは、この債務整理の申し出があった時点から債務整理の終了するまでの期間(これを一時停止期間といいます)は、債務者は一定の場合を除いて資産の処分等や新たな借入ができなくなるし、債権者も弁済を受けたりすることができなくなります。これに違反すると、本ガイドラインに基づく債務整理手続きの利用を拒否されます。

◆4 調停条項案の作成・提出と債権者の同意
@債務整理の申し出の後、一定期間内に、債権者に対して、債務の弁済に関する調停条項案を作成して提出しなければなりません。
Aこの調停条項案には、いくつかの要件がありますので、登録支援専門家の助言等を受けながら作成します。
B調停条項案の作成に際して、債権者との事前の協議をすることもあります。
C調停条項案について、全ての債権者の同意が得られたら次の段階へと進みますが、その同意が得られないかまたは得られる見込みがないときは、債務整理手続きは不成立となって終了します。

◆5 特定調停の申し立てへ
@調停条項案について債権者の同意を得た場合(同意の見込みを得た場合も含む)、債務者は、簡易裁判所へ特定調停の申し立てをします。
A特定調停手続きにおいて調停条項案が調停調書へ記載されて同手続きは終了し、これと同時に、本ガイドラインに基づく債務整理手続も終了します。
Bその後は、債務者は、調停条項に従って返済していくことになります。

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836号 2016年12月25日

(33)震災ADR

 今年の最後の「知って得する法律相談」は、熊本県弁護士会が実施している「震災ADR」という紛争解決方法を紹介します。
 ADRというのは、裁判所の訴訟手続等によらない紛争の解決手続きで、熊本県弁護士会が実施している「震災ADR」は、熊本地震の震災に関連する紛争について、熊本県弁護士会所属の弁護士が、中立的立場で「和解のあっせん人」となって紛争当事者の言い分を聴取し、解決のための「あっせん案」を提示して紛争を解決する手続きです。
 熊本地震の発生後は、建物損壊に伴う賃貸借関係のトラブル、被災したマンション等の修繕、解体等を巡るトラブル、ブロック塀の倒壊や屋根瓦の落下等に関連するトラブル等、いわゆる相隣関係(お隣同士)の紛争が非常に多く発生しました。そこで、熊本県弁護士会では、安い費用で早期の紛争解決を図る方法として「震災ADR」を実施することにしました。

1.「震災ADR」申し立て前の準備
@申し立てを希望する人は、熊本県弁護士会所属の弁護士の法律相談を受け、その相談担当弁護士から「震災ADR」申し立ての紹介を受けることが必要です。
 法律相談センター 096−325−0009相談料は無料です。 
Aただし「震災ADR」案内のチラシの裏面の申込用紙に必要事項を記入し、熊本県弁護士会紛争解決センター(以下、紛争解決センターといいます)宛てに郵送又は FAX 096−325−0914で申し込むこともできます。この場合は、申立サポート弁護士から内容確認の電話等をさせていただきます。

2.申し立て手続き
@上記1−@の場合は、弁護士による法律相談を受けられた人は、紛争解決センター宛てに、相談担当弁護士の「紹介状」を添付した「和解のあっせん申立書」を提出して申し立てをします。
A上記1−Aの場合は、「震災ADR」案内チラシ裏面の申込用紙に必要事項を記入後、紛争解決センターへ郵送又はFAXで送付し、申立サポート弁護士の電話等による内容確認を経て申し立てをします。

3.申し立ての受け付け
@あっせん期日の指定 申し立て手続きの後、あっせん人(弁護士)、申立人及び相手方の日程を調整して、第1回のあっせん期日が指定されます。
Aこの期日の指定の際に、相手方には話し合いに応じるように要請します。もし、相手方が話し合いによる解決に応じる見込みがないときは、手続きを進めることができませんので手続きは終了します。

4.あっせん期日
@あっせん人は、あっせん期日において当事者双方から、原則として別々に言い分を聴取し、合意ができるようにあっせんを行います。あっせん期日の回数は原則3回以内です。
A相手方が期日に出席して話し合いを重ねたが合意することができなかった場合は、あっせんは不成立となります。

5.和解の成立
@合意が成立したときは、あっせん人が「和解契約書」を作成し、当事者双方がその内容を確認して手続きが終了します。
Aその後、和解成立手数料として一定額を申立人と相手方が費用を折半して負担していただきます。

6.費用等の詳しいお問い合わせ
 紛争解決センター 096−325−0913


840号 2017年1月29日

(34)家族信託

 今年の第1回目は「家族信託」という制度についてです。相続や遺言ということについては多くの方がご存知だと思いますが、「信託」「家族信託」という制度は、最近取り上げられて関心が持たれるようになりました。今回からできるだけ分かりやすくお話したいと思います。

◆そもそも「信託」とは何ぞや?
 「信託」とは、ある人(委託者)が、契約や遺言により、自分の有する土地や金銭等の財産(信託財産)を自分の信頼できる人(受託者)に移転し、委託者の定めた信託の目的に従って信託の利益を受ける人(受益者)のために、受託者が信託財産を管理・処分等をするという制度です。

◆分かりやすい事例
 Aさんは現在75歳。72歳の認知症の妻Bとの間には長女C(45歳)と長男D(42歳)がいる。Aさんには、収益不動産(賃貸マンション、年間賃料収入約500万円)がある。しかし、長男Dは無職・無収入で浪費癖があり、両親や姉に金の無心をすることがしばしばある。
 Aさんは、認知症の妻Bの生活や、DがAさんの財産を相続してもすぐに浪費してしまうのではないか、また、自分の死後の相続でもトラブルを起こすのではないかと心配している。

 Aさんの不安を解消する方法には何があるか。この事例を前提として、Aさんの取りうる方法について、遺言をした場合と信託を利用した場合で考えてみましょう。


●Aさんが遺言をする場合
 Aさんは現在、認知症にもなっておらず、財産関係についても判断能力が十分あるので、自分の財産のことを慮(おもんぱか)って遺言することが考えられます。
 遺言の方法にはいくつかありますが、最も確実な方法は公正証書による遺言をすることでです。公正証書遺言のやり方については別の機会に説明しますが、事例との関係でどのような内容の遺言にするかを次回から考えてみましょう。

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844号 2017年2月26日

(35)家族信託A

 今回は、前回の事例を図示しましたので、それを参考に説明します。まず、事例において考えられるAさんの遺言について考えてみましょう。

 遺言する場合に重要で大きなポイントは2つです。まず、遺言者がご自身の財産(将来の遺産で、遺言の対象となる財産)を正確に把握しておくことです。次にその財産をどの相続人に、どのように相続させるかということ、すなわち、遺産の分け方の問題です。なお、遺言をしていなければ、民法が定める法定相続分に従うことになります。

 まず、Aさんの妻が認知症ということですから、自分の亡きあとの妻Bさんの生活のことが一番の心配事ではないでしょうか。そこで、自己の財産のうち、妻Bさんの生活費や施設費(将来、施設に入所することが予想される)のために、定期的な収入である賃貸マンションの賃料収入をBさんに相続させることが考えられます。なお、Bさんは認知症で自己の財産管理能力に問題がありますので、別途、成年後見制度の活用を考慮する必要があるでしょう。特に長男Dさんからの金の無心のおそれがありますので、そのことからもBさんには成年後見人が必要と思われます。ただ、遺言により成年後見開始の申し立てはできませんので、これをAさんがするとすれば、Aさんの生前にすることになるでしょう。

 次に無職・無収入で浪費家の長男Dさんについてですが、遺留分がありますから、相続開始後において、遺留分による紛争が起こらないようにしたいものです。そこで、遺言でDさんの遺留分を考慮し、その分をDさんへの相続分として遺言しておくと良いでしょう。なお、Dさんが被相続人に対して生前に暴力をしていた等の事情がある場合など、一定の場合には家庭裁判所へ相続人廃除の申し立ても考えられますが、これは容易に家庭裁判所で認められません。またDさんの浪費癖からすると、相続で取得した遺産は浪費によってすぐになくなってしまうことが予想されますが、Dさんの財産管理能力に問題がない以上、浪費による財産の散逸は防止できません。
 以上に加えて、遺言はあくまでも相続開始後に効力が発生するものですから、相続開始前のAさんの心配事の解決には役立ちません。

 では家族信託という制度を使うとどうなるでしょう。次回に続きます。


 
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