碓井秀典(東京都港区在住 原水出身)
ステラーコミュニケーション株式会社


976号 2020年1月19日

(1)替り目

 明けましておめでとうございます。今号からワンネスにご縁を頂き連載を始めることになりました碓井秀典と申します。菊陽町原水出身で、現在は東京でデザインの仕事をしています。落語が好きなので落語の話をさせていただきたいと思います。
 私が落語を聞き始めたのは、2011年の2月で一人で仕事を始めてから半年経った頃でした。仕事がうまくいくのか不安で、気持ちを切り替えたいと神楽坂毘沙門天で行われる落語会に行ってみたのが最初です。ですから8年半くらいで、実はあまりたいしことはないのです。ただ、その世界のことを知り始め、ちょっと分かってくると「誰かに伝えたい、話をしたい」という気持ちが募り、落語会のはねたあとで、友人たちと反省会と称して飲んで話しているだけでは飽き足りず、今回の連載に至った次第です。どうぞよろしくお願いします。
 「独断!」とタイトルにありますように、私の好き嫌いに基づく内容になっています。お読みになった方には、ご不快な気持ちを抱かせてしまうかもしれません。そうなりましたら、大変申し訳ありません。先にお詫びをしておきます。

 第1回目は古今亭志ん生(五代目)です(多分、この後も何回も出てくるかと思います)。音源が残っている人というとやっぱり戦後になりますから、それ以降で言うとやはり志ん生が第一人者でしょう。昭和の大名人と言われていて、私などが言う必要もないのですが、破天荒・天真爛漫と評され、うまさはもちろん、話し方のスタイルや格調、言葉遣いの丁寧さ、滑稽話・人情話、どれをとっても大名人と呼ぶのにふさわしい噺家です。
 噺は何を選ぶか! ここが問題です。「火炎太鼓」「富久」「強情灸」「文七元結」「淀五郎」「風呂敷」「猫の皿」……。私が挙げたいのは「替り目」です。この噺は「酔っ払い噺(こう言う分類があるかは知りません)」の一つで、志ん生は前段と後段を思いっきりカットして夫婦の対話のところだけで演じています。「酔っ払い噺」は、下手が演ると、酔態を強調するあまり、下品な感じであまり好きではありません(自分のことを棚に…)。
 今はこの志ん生の型が主流だと思いますが、前後をカットしたことが良かったのだと思います。志ん生の魅力の点を先ほど挙げましたが、「可愛らしさ」というのもあり、これがよく現れている噺かとも思います。志ん生の実生活から生まれたと言われていて、その通りなのだと思いますが、それを知らなくても充分に楽しめます。


980号 2020年2月23日

(2)時うどん

 連載第2回目ということで、迷った揚げ句「時うどん」にしました。元々は上方の噺で東京の方では「時そば」になります。食文化の違いでしょうか、江戸っ子はうどんが嫌いだったようです。私も初めて東京に出てうどんを頼んだ時、出てきた黒い汁に入ったものを見て「ぼ、ぼくが頼んだのは、う、うどんですっ!」と思わず言いそうになりました。それを思えば嫌いなのも、もっともだ思います(今は慣れてしまって食べてます)。
 東京版では、傍で見ていた男が真似をするのに対し、上方では兄貴分と弟分の二人が登場し、感心した弟分が翌日真似をしてしくじってしまうという型になっています(東京でも春風亭昇太がこの型でやっています)。「付け焼き刃モノ」(私の分類)の一つです。「今、何時だい?」のセリフがすっかりおなじみで、オチも変えようがないので、噺家たちは2軒のうどん屋の、味やしつらいを真逆にし、そのギャップで笑いを取るという工夫をしています。
 この噺で重要なのは、現代と江戸時代の時法が違うということで、長くなりますが、日没(暮六つ)から夜明け(明け六つ)までを6等分し一刻(とき)とし、六つから五つ、四つと数え、次は(なんと!)九つ、八つ、七つ、そして夜明け(明け六つ)と続いていく、という時刻の数え方をしていたんですねぇ!(だから、夏と冬、昼と夜の単位時間の長さが違っていたんですねぇ!「不定時法」というらしいです)。真似した男のしくじった原因がここにあったんですね。ちょっと早く出すぎちゃったんですねぇ!

 さて、普通の「時そば」ならご覧になる機会は多いかと思いまして、ここでは上方の笑福亭福笑(上から読んでも下から読んでも…)のものをご紹介します。六代目笑福亭松鶴の三番弟子です。新作・古典両方やりますが、古典は工夫が盛り沢山で「改作」にかなり近いものになっています。何の工夫もなければ落語は廃れてしまいます。新作は好き嫌いの別れるところだと思いますが、私は暴走系・スタンピード系と呼んでいます(上方には多いんだ!)。私は大好きです。古典では「桃太郎」「千早ふる」、新作では「憧れの甲子園」「今日の料理」(大丈夫なのかぁ?)などで、別の機会に是非取り上げたいと思っています。
 時法のことも、他の噺家も説明している人はいますが、福笑はまくらできっちり押さえています。
 動画は、スタンピードなアクションを満喫していただけます。東京では滝川鯉昇の「蕎麦処 ベートーベン」がお薦めです。